2018.08.20 08:00

【サマータイム】導入する必要があるのか

 2020年東京五輪・パラリンピックの暑さ対策として、安倍首相が自民党に対し、国全体の時間を夏の間だけ早めるサマータイム(夏時間)制度の導入の可否を検討するよう指示した。
 東京五輪・パラリンピック組織委員会の要請を踏まえた対応で、日本標準時間を現在より2時間早める案が浮上している。今夏のような猛暑への対策は重要だが、全国を巻き込むサマータイムの必要が果たしてあるのか。大きな疑問だ。
 日本でも、かつてサマータイムを実施していたことがある。1948年、電力不足を背景に連合国軍総司令部(GHQ)の指示で導入されたが、国民の間に労働時間が長くなったなどの不満が高まり、わずか4年で廃止となった。
 その後も導入の動きが何度かあった。理由の一つとして上げられたのが省エネによる地球温暖化対策だ。今回も組織委会長の森元首相は「政府が地球環境保護に取り組むという観点で進めてほしい」と求めた。
 ただし、2006年に全面実施した米国インディアナ州では家庭の電力消費が1~4%増えた。照明用は減少したものの、冷暖房用が増加したためとみられ、日本でも省エネに逆行する可能性がある。
 コンピューターの対応なども課題となる。自治体や企業のシステム改修、鉄道や航空のダイヤ変更などには膨大な費用と時間がかかる。五輪本番まで既に2年を切る中、社会的な混乱を招きかねない。
 見逃せない問題は健康との関わりだ。過去の導入議論ではほとんど触れられなかったが、日本睡眠学会は08年、健康に悪影響を及ぼす恐れがあるとしてサマータイム制度に反対する声明を出している。
 同学会によると、夏時間への変更後、数日から2週間程度は睡眠時間の短縮や、眠りが浅くなるなど睡眠の質の低下、抑うつ気分や自殺の増加などが起こる恐れがあり、医療費の増加など経済的損失をもたらす可能性があるという。
 ほぼ全域でサマータイムを実施している欧州では、欧州連合(EU)が廃止の是非について本格的な検討を始めた。利益よりも不利益が大きいとして廃止を求める声があるためだ。ロシアは健康への悪影響などを理由に7年前に廃止している。
 こうした問題点や欧州の動きを踏まえるなら、五輪の暑さ対策といった理由で導入を軽々に認めるわけにはいかない。社会全体に大きな影響を及ぼすという意識があまりにも乏しいといわざるを得ない。
 むろん、選手らの体調に配慮した対応は不可欠だ。男女のマラソンは午前7時スタートだが、単純に2時間繰り上げて同5時にすればよいのではないか。それでも不十分なら、競技開始をさらに早めるなど工夫の余地はあるはずだ。
 大会組織委や安倍首相の姿勢は、五輪名目なら社会の負担増は許される、といったおごりの表れとみることもできるだろう。
カテゴリー: 社説


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