2018.08.07 08:00

【イラン制裁再開】核すら取引に使う危うさ

 イラン核合意から一方的に離脱を表明したトランプ米政権が7日、対イラン制裁を再発動させる。中東の核拡散防止を目指した歴史的な協約は存続の危機を迎えている。
 核合意は2002年に核開発計画が発覚したイランと、米英仏独中ロの6カ国が15年に結んだ。
 しかし、トランプ大統領は今年5月、英仏独などの説得に耳を貸さず、離脱と制裁再発動を表明した。一定期間後に核開発制限の一部が終了することや、ミサイル開発の制限が含まれていないことを「抜け穴だらけ」とこき下ろしてきた。
 背景には、11月に控える米国の中間選挙を意識した国内向けの論理が透ける。
 1979年のイラン革命以来、米国とイランは激しく敵対してきた。その両国が歩み寄り、多国間で結束した核合意は、「核なき世界」を掲げたオバマ前政権の「レガシー(政治的遺産)」とされてきた。
 前民主党政権の功績を否定し、イランと対立するイスラエルを支持する国内基盤にアピールする狙いである。自国第一主義の理屈しか念頭になく、国際協調を顧みないトランプ氏の身勝手さが際立つ。
 制裁は、今回は自動車部門との取引やイラン政府の米ドル現金獲得などを禁止する。中間選挙と重なる11月には、最大の収入源である石油部門に対象を拡大する。
 イランでは米国の離脱表明と前後して経済が悪化し、核合意を推進した穏健派、ロウハニ大統領への風当たりが強まっている。
 制裁再発動を控え、イラン国内ではウラン濃縮能力の拡大に向けた準備が進み、保守強硬派は原油輸送の大動脈であるホルムズ海峡を封鎖する可能性も示唆している。
 イラン国民は昨年の大統領選でロウハニ師を再び選んだ。核開発への疑惑で経済制裁を受けるなど国際的に孤立し、困窮した時代に戻りたくないという意思の表れだろう。
 国際協調への転換を進めてきたロウハニ師を追い込み、軍事的な緊張を高めるトランプ政権の政策には疑問が募る。
 制裁再発動を前に、トランプ氏はイラン側に首脳会談に応じる考えを示した。激しい非難の応酬や圧力の末に、北朝鮮から「非核化」の言質を取った事例を踏まえ、核合意見直しに妥協を得る思惑という。ただ、事務方の積み上げのない首脳外交で得た「非核化」は行程が見えず、検証できているのかも分からない。
 何より、核兵器を巡ってすらディール(取引)を迫るトランプ政権の手法は危険である。
 日本も無関係ではない。米国は11月までのイラン産原油の禁輸を各国に求めている。日本は年間輸入量の約5%がイラン産だ。代替調達費の増大で、ガソリン価格の高止まりなど市民生活への影響が予想される。
 むろん、核拡散の防止に無関心でいてはならない唯一の被爆国でもある。問題を多国間の枠組みに戻すよう政府は発言していくべきだ。
カテゴリー: 社説


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