2018.08.03 08:00

【iPS治験】実用化向け冷静な検証を

 パーキンソン病患者の「治療の有力な選択肢」を目指し、iPS細胞(人工多能性幹細胞)を使った世界初の治験(臨床試験)が始まった。
 iPS細胞から作った神経細胞約500万個を患者の脳内に移植する。京都大の高橋淳教授らが年内に1例目を実施したいと発表した。
 山中伸弥京大教授が、人のiPS細胞を開発したと発表してから10年余りがたつ。
 iPS細胞は、さまざまな細胞に変化する能力を持ち、失われた体の動きを人工的に補う再生医療への応用が期待されてきた。人への臨床応用は徐々に進んでいる。
 病気の治療で患者に移植が認められたのは国内で3種類目だ。
 これまでにも、理化学研究所などが目の網膜の病気「滲出(しんしゅつ)型加齢黄斑変性」の患者に細胞を移植する臨床研究を実施。大阪大では、iPS細胞から作った心筋シートを重症心不全患者の心臓に移植する計画が国の承認を得た。
 治療が難しい病気と向き合う患者や家族にとって、選択肢の拡大は一日千秋の思いだろう。「一日も早く新しい治療法を届けられるように」とする医師や研究者の取り組み姿勢を評価したい。
 パーキンソン病は、脳の神経伝達物質ドーパミンを出す神経細胞が減り、手足の震えや体のこわばりなどが起こる。国内の患者は推定で約16万人とされ、根本的な治療法はない難病である。
 現在はドーパミンの元になる物質を投与する薬物療法が主流だ。しかし、病状が進行すると効きにくくなるとされる。これに対して、「失われたドーパミン神経細胞をもう一度増やす」(高橋教授)という治験を始めたインパクトは大きい。患者にとっても朗報だろう。
 当然ながら、課題は多い。 
 iPS細胞はがん化するリスクが否定できない。また、移植を受ける患者本人とは違う他人の細胞を使う今回の治験では、拒絶反応も懸念されている。
 山中教授も「治験は安全性と有効性を確認することが目的」としている。副作用の慎重な見極めと長期的な安全性の検証が重要になろう。
 決して万能の治療ではない面もある。治験は運動機能の改善に役立つと期待されている。ただ、うつや認知症などの症状は改善せず、限界もあるという。
 費用面の問題もある。iPS細胞を利用した治療は安価な治療とは言い難い。
 高橋教授は記者会見で、保険適用を目指すために治験を行うと言及。企業とともにiPS細胞からつくる移植細胞の製造を大量、自動化させることでコスト削減を目指す考えを示している。
 再生医療が一般的な医療として実用化され、患者の選択肢になることへの期待は大きい。それだけに、治療の安全性と有効性を最重視した慎重な実施に加え、費用面まで見据えた冷静な検証を求めたい。
カテゴリー: 社説


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