2018.08.01 08:00

【諫早湾水門判決】国は地域に寄り添え

 国営諫早湾干拓事業(長崎県)の堤防排水門の開門を命じた確定判決の効力を巡る訴訟の控訴審で、福岡高裁は国に対する開門命令を無効とする判決を言い渡した。漁業者側の訴えに沿った2010年の同じ福岡高裁の判決の効力をなくし、国側の主張を認めた。
 水門を巡って相反する決定・判決に分かれてきた司法判断のねじれは解消される。今後、国は閉門を確定事実として、干拓事業や地域対策を推進することになろう。
 だが、国が自ら上告せず確定させた判決にこれまで従わず、履行してこなかった不誠実な対応を同じ高裁が追認したともいえ、司法の一貫性が問われよう。上告して争うという、漁業者側の失望と不信は当然である。
 コメ増産のための農地造成と高潮の防災などを目的とした諫早湾干拓事業は1986年に着手され、2008年に完工。1997年に鋼板で堤防を閉める様子は「ギロチン」と呼ばれた。閉門後、沿岸の漁業者は不漁に見舞われ、潮流の変化による被害を訴えてきた。
 2008年の一審佐賀地裁、2010年の福岡高裁の判決はいずれも閉門と漁業被害の因果関係を認め、国に調査のため5年間、常時開門するよう命じた。漁業者らの切実な不安に応えようとしなかった、国の強権的な姿勢を厳しく非難する判決だった。
 当時の民主党政権の首相判断で上告せず、判決は確定した。だが、開門による塩害を懸念する営農者側が反発し、提訴。長崎地裁が2013年に開門禁止の仮処分を決定したのに続き昨年、同地裁が開門の差し止めを命じる判決を出した。
 今回の控訴審で、国は確定判決後の「事情の変化」を持ち出した。高裁判決は確定判決時に漁業者が持っていた共同漁業権は法定期限の2013年で消滅し、同時に、開門を請求する権利も失われたと結論付けた。国が漁業者側に支払ってきた開門命令違反の制裁金の停止も命じた。
 漁業者が主張し、確定判決も認定した漁業の被害状況などは論点とせず、漁業権規定の形式論で導き出した判決である。結論ありきだったと取れる。
 ただ、高裁は不漁との因果関係まで否定したのではない。国が昨年、100億円の漁業振興基金での解決を提案し、高裁も基金案に沿う和解を勧告し、漁業者側に不利な判決となる可能性を示唆。救済の道を促したものの、漁業者側が反発し、協議が決裂した経緯がある。
 国は地域振興の美名の下、巨大公共事業を推し進め、住民に分断を強いてきた。その事実は明白だ。漁業者らを一層の苦境に陥れかねない今回の高裁判決は、国策の罪深さを改めて浮き彫りにする。
 干拓事業がもたらした問題の本質は、有明海の豊かさと地域の和をどう再生していくか。国は司法の原則論を振りかざすのではなく、地域に寄り添い、共に解決策を見いだしていく努力を尽くすべきだ。
カテゴリー: 社説


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