2018.07.17 08:00

【NHKとネット】メディアの多様性確保を

 総務省の有識者検討会が、NHKがテレビ番組を放送と同時にインターネットで配信する常時同時配信について「妥当性がある」とした報告書案をまとめた。
 総務省は2019年の通常国会を視野に、民業圧迫などを理由に常時同時配信を禁じてきた放送法の改正案提出を目指す。NHKは19年度中に配信を始める意向だという。
 スマートフォンが急速に普及し、テレビを持たない1人暮らし世帯が増えている。海外ではテレビの同時配信は当たり前で、動画サイトの台頭も著しい。
 同時配信は時代の要請ではあるだろう。スマホやタブレットがあれば、場所を選ばずテレビ番組が常時見られるようになる。視聴者の利便性は高まろう。
 一方で、NHKの「肥大化」はメディアの多様性や地方民放局による地域情報の提供を損なわないか、という懸念もある。
 受信料という安定財源を持つNHKのネット進出は民業圧迫ではないか、という民放などの警戒感は根強い。
 ただでさえNHKは17年度の事業収入が約7200億円の巨大メディアだ。ネット空間に必要なのか議論もある「公共メディア」の役割をはじめ、チャンネル数など業務の範囲と規模を明確にする必要がある。
 業務の定義と連動して、受信料の在り方も議論が必要になろう。報告書案は「水準や体系などの見直しをする」と指摘し、視聴者の負担引き下げを事業の条件としている。
 ネット配信に関してもNHKは当面、受信契約世帯向けのサービスとし、ネットのみの視聴者にも負担を求めない方針だ。しかし事業にコストがかかる以上、将来的には徴収する可能性を指摘する専門家もいる。明確にすべき課題の一つだろう。
 地方の民放局に及ぼす影響も考えなければならない。報告書案も、地元の民放を圧迫しないよう地域番組は配信地域を制限することが合理的だ、と注文を付けている。
 ただ、NHKがネット同時配信に踏み切れば民放キー局も競争上、追随することも予想される。
 地方局は各局独自の番組は作っているものの、キー局制作番組への依存度は高い。ネットでキー局の番組まで同時配信になれば、視聴者離れが進む恐れがある。視聴率の低下は広告収入の減少につながり、経営を直撃しかねない。
 地方局はキー局が対応できない地域のニュースや話題を取材し、住民に提供する大切な役割を担っている。経営基盤が揺らがないような在り方を検討していく必要がある。
 日本の放送業界は、受信料によるNHKと広告収入による民放という異なるシステムが併存することで、多様な言論空間を実現してきたといえる。安倍首相が積極的に推進する「大胆な規制改革」で、それが損なわれてはならない。
 メディアの多様性確保も念頭に置いた丁寧な議論を求めたい。
カテゴリー: 社説


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