2018.07.16 08:00

【核禁止条約1年】被爆国の譲れぬ一線説け

 核兵器の完全な廃絶を目指す核兵器禁止条約が、国連で採択されてから1年がたった。
 その前文には「ヒバクシャの受け入れ難い苦しみに留意する」と記された。1945年の広島、長崎への原爆投下の惨禍を二度と繰り返すまい―。平和と共存の世界に向けた誓いだ。
 日本の被爆者と連携し、核の非人道性を訴えてきた国際非政府組織(NGO)の「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」も条約制定への貢献が評価され、昨年のノーベル平和賞を受けた。核根絶の願いは国際社会の潮流だ。
 核兵器を非合法化するこの条約は使用、保有をはじめ、威嚇や実験なども全面的に禁じる。核軍縮や平和についての教育の重要性なども盛り込み、各国に結束を求め、50カ国・地域の批准で発効する。
 だが、国連加盟の6割を超す122カ国・地域の賛成で採択されたものの、これまでに批准したのはオーストリアや中米コスタリカなど11カ国・地域にとどまる。条約に反対する米国など核保有国や、米の「核の傘」に依存する日本などは署名拒否を通している。
 米が経済支援で優位な関係を持つアフリカや中南米諸国に批准しないよう、水面下で圧力をかけているとの指摘がある。力ずくの妨害行為であり、批准を目指す国との溝を深めるばかりだ。
 核保有国は核軍縮・不拡散を議論する国際的な枠組みは、核拡散防止条約(NPT)の体制のみだと主張する。
 5年ごとに開かれるそのNPT再検討会議は前回会合で核保有国と非保有国が対立し、最終文書に合意できず、決裂した。2年後の次回会合への危惧も強まる。核保有国に核軍縮義務を課すNPT自体が機能不全に陥りかねない。
 トランプ米政権は今年2月に公表した核戦略の新指針で核の役割拡大を打ち出し、核兵器禁止条約を「非現実的」と批判した。ロシア、中国も軍拡路線を強めており、核廃絶を本来主導すべき大国がその道筋をゆがめている。
 ストックホルム国際平和研究所は今年1月時点の世界の核弾頭総数は計1万4465個に上ると推計。昨年より約3%減る一方、保有国は核兵器を近代化させていると分析し、懸念を訴えている。
 「核なき世界」を掲げたオバマ前米大統領を広島に招く一方、米の意向に追従する日本の姿勢は矛盾を抱えたままだ。「唯一の被爆国」としての譲れぬ一線を示すべきだ。
 核をなくすこの条約は次代に共存社会をもたらす希望だ。条約採択後、高知県を含め全国の地方議会が批准を求める意見書を相次いで可決した。被爆国の日本こそ先頭に立ち、国際協調を築けと迫る民意だ。
 原爆の脅威、平和主義を核保有国に説き、条約に導く。それこそが日本が果たすべき使命、役割であり、国民の切実な要請である。
カテゴリー: 社説


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