2018.06.17 08:00

【新幹線の安全】「迷わず止める」の構築を

 人の命を運んでいる、という安全意識が欠如している。JR西日本は、そう非難されてもやむを得ないだろう。
 山陽新幹線のぞみ176号が福岡県内で人身事故を起こし、運転士と停車駅の駅員が事故の異常音や車体の異変に気付きながら、そのまま運行を続けていた。
 運転士らは過去の経験から小動物との衝突と思い込み、走行に影響はないと判断したという。だが、のぞみはボンネットの先端部が割れて破損したまま、10分前後も高速走行しており、重大事故につながっていた可能性は否定できない。
 「安全を確認できない場合には迷わず列車を止める」。昨年12月に起きた山陽新幹線の台車亀裂問題で、JR西が改めて打ち出した教訓は生かされなかった。新幹線の安全を信じ、命を預ける乗客らを裏切ったにも等しい。
 事故は、博多を出発したのぞみ176号が次の小倉駅に向かう途中で起きた。男性が線路内に侵入し自殺を図ったとみられる。
 50代の運転士は小動物との衝突と考え、重大トラブルと捉えず、安全措置などを仰ぐ運転指令に報告しなかった。小倉駅の30代の駅員も車体先端部に血のりやひび割れのような痕跡を目視しながら、特段の異常と認識せず、列車が発車した後に指令に伝えたという。
 JR西は、乗客106人が死亡した2005年の尼崎脱線事故で、運転士らへの懲罰的な指導が誘因として問題視された。昨年の台車亀裂問題では、乗務員が異常を察知した後も点検せず、約3時間も走行し続けていたことが分かり、「安全最優先」を誓った教訓の風化が厳しく問われた。今年2月に新たな安全指針をまとめたばかりだ。
 安全意識の緩み―という捉え方だけでは理解し難い。
 今回も、ダイヤ優先の重圧が背景にあるのではないかとの指摘や、新幹線の線路内に人が入り込む事態は想定外だったという見方もある。だが、安全を軽視したようなミスや不手際が繰り返される状況は、JR組織内に根深く残る体質的、構造的な要因を疑わせる。
 新幹線は1964年の開業以来、87年の国鉄分割・民営化を経て安全と信頼を築いてきた。一方で、採算性やサービス向上がより求められ、利益や効率化への追求が強まる中、安全点検や事故防止の手だてが後回しになったり、課題の見落としが生じたりしていなかったか。
 東海道新幹線では乗客3人が無差別的に殺傷される事件が起きた。3年前には焼身自殺に無関係の乗客が巻き込まれた。乗客全員の持ち物検査が非現実的な鉄道で、そうした凶行をどう防ぐか。列車の安全対策は多面的な検証を求められている。
 人為的な対策に限界があるとすれば、人工知能(AI)といった先端技術の活用も柔軟に検討すべきだろう。「迷わず止める」の安全システムの構築を急ぎたい。
カテゴリー: 社説


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