2018.06.14 08:35

高知新聞・土佐古地図ナビ総集編 歴史は私たちの足元に

高速バスが走る高知自動車道の下を大名行列が進む様子を地域住民と“再現”した(大豊町立川下名)
 四国山地を貫く高知自動車道の真下に、古代から明治期まで続いた官道(参勤交代道)が通っているのをご存じでしょうか。京都から紀貫之が土佐へ入国した道といわれ、山内家の歴代藩主が江戸に上り、剣術修行に向かった坂本龍馬も歩いた道です。

 教科書や博物館で学ぶ歴史事象の中には、私たちの身近な場所で起こった事象がたくさんあります。日ごろ何げなく見ている建物や景観の下に、土佐の人たちが紡いできた長い歴史が息づいています。

 江戸幕府が滅び、近代の幕が開けた大政奉還・明治維新から150年の節目となった2017年。高知県内各地の古地図を切り口に、地域の歴史を見つめ直そうと始めたのが、年間企画「土佐古地図ナビ」です。

 2017年4月から2018年3月までの毎月1回、特集紙面を掲載し、一條氏の町づくりや高知城の成り立ち、自由民権運動の盛り上がりなどを紹介。記者と住民が古地図を見ながら一緒に現地を歩き、歴史上の人物に扮することで歴史事象を“再現”し、地域の歴史を探求してきました。

 今回は、計12回にわたって展開してきた「土佐古地図ナビ」の総集編。土佐の地域史に光を当てた取材班の取り組みを、座談会や名場面集で振り返ります。

歴史町歩きや古地図の魅力を話した座談会
町と歴史 魅力再発見
 純信・お馬の物語、岩崎弥太郎の帰郷、岡豊城合戦…さまざまな土佐の歴史事象について計12回にわたって紹介した年間企画「土佐古地図ナビ」。紙面を通して発信された古地図や歴史町歩きの魅力について、「歴史再見」の演者や「史跡散策」の案内人として紙面に登場した宅間一之、海老塚和秀、仙頭ゆかりの3氏に語り合ってもらいました。=敬称略

左から、仙頭ゆかりさん、宅間一之さん、海老塚和秀さん
【仙頭さん】過去と現代が融合
【宅間さん】変化考える楽しさ
【海老塚さん】学べば誇り持てる

【出席者】
土佐史談会会長・宅間一之さん
竹林寺住職・海老塚和秀さん
「はばたけ弥太郎」安芸市推進委員会会長・仙頭ゆかりさん
司会=楠瀬慶太(高知新聞学芸部)


 ―全国で古地図や歴史町歩きがブームになっている。皆さん、町歩きガイドもされていますが、感じることは。

 【宅間】高知でも歴史町歩きは大人気。NHKの人気番組「ブラタモリ」の影響は大きいと思う。過去の歴史と現代をつなげる古地図は町歩きに欠かせない。石碑や説明板を訪ね歩くだけでなく、地図と現在の状況を見比べて、歴史や町の変化を深く考える楽しさがある。

 【仙頭】ガイドをする時はなるべく古地図を見せる。今どこにいるのか、昔はどんな街並みだったのか、想像しながら歩くと、歴史を身近に感じてもらえる。

 【海老塚】インターネットで世界の地図や風景が見られる時代。似通った町や景色に見えても、地域を実際に歩いてみるとそれぞれに特色がある。歴史を通して地域の個性を見つける際のツールとして、古地図や町歩きが関心を集めているのではないか。

 ―皆さんも出演した「土佐古地図ナビ」の感想をお聞かせください。

帯屋町アーケードで起きた吉田東洋暗殺事件を扱った正月紙面
 【宅間】高知市の帯屋町アーケードで起きた吉田東洋暗殺事件を扱った昨年の正月紙面が、4月から始まる古地図ナビの序章としてインパクトがあった。記者の扮装(ふんそう)による再現と古地図を使った町歩きで、県民になじみのある場所が幕末を象徴する事件の現場だったことがよく分かり、周囲でも反響が大きかった。

竹林寺の僧・純信とお馬の駆け落ちを記者が再現した土佐古地図ナビの一場面(高知市五台山)
 【仙頭】高知城編で、城を攻める甲冑(かっちゅう)姿の武者の横を観光客が歩く写真を見てくすっと笑った。過去と現代が融合した面白い企画が始まったなと。まず大きな写真に興味を引かれ、「詳しく知りたい」と古地図や文章へ読み進められた。12回を通して、難しい歴史を楽しく学べる仕掛けがされていたように思う。記事下に地元の商店や施設の広告が入り、地域のアピールになる紙面に仕上がっていた点も良かった。

岩崎弥太郎の母を演じた仙頭ゆかりさん(安芸市井ノ口)
 【宅間】毎月、時代や地域、趣向が変わり、歴史ファン以外も楽しめる内容で、「次は何が紹介されるのか」と紙面を心待ちにした読者も多かったのではないか。

長宗我部氏の武将役を演じる宅間一之さん(高知市丸ノ内)
 【仙頭】純信・お馬の物語を再現した回(第五話)など全体に写真やレイアウトが美しく、内容も充実して歴史教材として保存しておきたい紙面だった。

長宗我部氏の武将役を演じる宅間一之さん(高知市丸ノ内)
 【海老塚】「町歩きの基礎知識」で歴史事象の背景を理解し、「史跡散策」でガイドと記者が町歩きをしながら受け答えする形式が非常に分かりやすかった。絵巻物の馬の画像を現代の電車通りの風景に載せた御馭初(おのりぞめ)の再現(第九話)や、QRコードで高知新聞のWebサイトから「歴史再見」の動画が見られる仕組み、RKC高知放送の番組で「古地図ナビ特集」を組むといった新聞とテレビとの連携(第八話)など新しい試みが目を引いた。

 ―「歴史再見」で、宅間さんは長宗我部氏の武将役、仙頭さんは弥太郎の母役を熱演しました。

 【宅間】歴史事象が起きた実際の場所に当時の格好をした人物を配置して、地域の史跡を身近に感じてもらおうという試みが良かった。写真に付けた古文書や古記録の引用文が、再現にリアリティーを持たせていた。 

 【仙頭】時代考証の観点では、「あれっ」と思う衣装の着こなしもあった。実際参加してみると、再現する時代が150年近く前で、着物は季節や身分に応じて異なっていて、衣装決めに苦労した。

 【宅間】そこは時代劇ではないので、ご愛嬌(あいきょう)の部分もあった。着物や武者姿の人たちが現代の風景の中にいるミスマッチ感が面白い企画だった。

 【仙頭】記者さんが何より楽しんで企画しているのが伝わり、自分たちも一緒に楽しめた。プロの俳優ではない住民や高校生、記者が、歴史を演じたことに親近感が湧いたとの声もあった。

 ―「史跡散策」では、海老塚さんに竹林寺境内のガイドをしてもらいました。
 
 【海老塚】参拝だけでなく、お寺の魅力はさまざま。自然に心癒やされ、建造物や仏像や石造物など文化財を通して芸術文化にも触れられる。古地図ナビの掲載をきっかけに、「史跡散策」で案内した史跡に解説パネルを置いた。今後は境内の散策マップ作成も計画している。

 【宅間】町歩きガイドの組織が県内に広がった背景として、歴史施設を回って展示やパネルを見るだけでなく、「ガイドを付けて詳しく説明してほしい」という観光客の要望が増えてきたことがある。

 【仙頭】人と人の出会いや触れ合いが重要な要素。観光客はガイドと歩いて地元ならではの話を聞くことで、地域の魅力をより感じてもらえる。ガイドする方も元気をもらえる。地域を好きになり、友人らと再度訪れるきっかけになればと思っている。

 【海老塚】ガイドマップに載ったメインメニュー(観光地)だけでなく、周辺のサブメニュー(史跡)も見たいという人が増えたように思う。観光の楽しみ方の質が変わってきたのかもしれない。

 ―「志国高知 幕末維新博」で、地域の歴史観光に光が当たっている。この機運をどう生かしていくべきか。

 【宅間】高知市など中心部だけでなく、各地に地域会場を設定し、役割を振ったことが、地域の刺激になったのではないか。歴史上の人物だけでなく、古地図や町歩きなど地域に入り込んだ展示や企画もあって好評だ。来年県が展開する自然観光のキャンペーンでは、森林や田畑、河川の歴史的背景や暮らしとの関わりも取り込んで、発信してほしい。

 【仙頭】安芸市の町歩きガイドでは、地元高校生にガイドをしてもらう取り組みもしている。子どもたちが地域の歴史文化の魅力を学び、伝承していくサイクルをつくっていくことも大切。高知の強みである歴史、自然、食を結びつけて、地域を元気にしていければと思っている。

 【海老塚】古地図ナビもそうだったが、地域の足元を見つめ直し、地域の光っている所を見つける取り組みが重要だ。住民が郷土の歴史文化を学び、誇りを持って外の人に説明できるようにしたい。「観光」の字を見れば分かるように、光っている地域に人は集まってくる。


 「土佐古地図ナビ」では、「歴史再見」のコーナーで現代の風景をあえて生かして土佐の歴史を“再現”しました。紙面写真のほか、惜しくも採用にならなかった写真やオフショット写真を裏話とともに紹介します。(楠瀬慶太)

■「龍馬伝」再び
撮影の打ち合わせで訪れた安芸市の「安芸観光情報センター」で、大河ドラマ「龍馬伝」で香川照之さんが着用した衣装と背負った鳥籠を発見。若き日の岩崎弥太郎の「鳥籠はいらんかえー」の名場面が思い浮かび、三菱自動車の看板も入れて再現しました。第四話「岩崎弥太郎編」より(安芸市染井町)

■大石は段ボール
野中兼山の土木工事を紹介した第六話「山田堰(ぜき)編」の出演者たち。大石や丸太は、記者が段ボールなどで手作りし、法被類はよさこい祭りの踊り子チーム「高新RKCグループ」の歴代衣装を使いました(香美市土佐山田町小田島)

■馬の着ぐるみも
「御馭初編」のオフショット。全てが画像の馬では寂しいので、レンタルショップで借りた着ぐるみの馬に、若手記者2人が入って武者にお供しました(高知市本町4丁目)

■県庁前走る“騎馬”
250年以上続いた土佐藩の正月行事を再現した第九話「御馭初(おのりぞめ)編」のメイン写真。本物の馬に県庁前の道路を走らせるのは難しい。そこで、幕末の絵巻物に描かれた騎馬武者を写真の上に載せ、本町筋を馬が走っている雰囲気を観衆とともに“再現”しました (高知市本町4丁目)

■熱中症対策
第一話「高知城編」のオフショット。堅固な城攻めは撮影といえども過酷。本丸を目指す長宗我部軍の兵士も、熱中症対策に途中の売店でお茶を購入しました(高知市丸ノ内)

■アビーロード
第八話「参勤交代編」の一場面。土佐藩の大名行列の背景に路面電車を入れようと、十数回横断歩道を渡って撮影。ビートルズのアルバム「アビーロード」のジャケットをほうふつさせる構図ですが、ボツになって無念でした(高知市はりまや町3丁目)

◆古地図ナビの紙面が閲覧できるようになりました。過去12回分の古地図や写真を詳細に紙面ビューアで見ることができます(電子版「高知新聞Plus」会員サービス)。

カテゴリー: 文化・芸能土佐古地図ナビ文化


ページトップへ