2018.06.12 08:00

【袴田さん再審】取り消しに疑問拭えず

 死刑判決に再審の扉を開いたかに見えた司法判断から4年余り。歯車はまさかの逆回転である。
 1966年、静岡で一家4人が殺害された事件で死刑が確定した袴田巌さんの第2次再審請求で東京高裁が再審開始を認めない決定をした。再審を認めた2014年の静岡地裁決定を取り消した。
 地裁が認めた袴田さんの死刑と拘置の執行停止は支持した。年齢や健康状態などに配慮したものだが、再審を認めないことは死刑判決の維持を意味する。他の収監者との平等性に疑問を残す結果になった。
 この事件では、1968年の一審判決が、工場のみそタンクから見つかったシャツなど「5点の衣類」は犯人の着衣であり、袴田さんのものだと認めて死刑を言い渡した。
 袴田さんは、捜査段階で「自白」し、裁判では一貫して犯行を否認したが、80年に判決が確定した。長い年月を経て、再審への道が見え始めたのは、科学鑑定の進歩や司法制度改革によるところが大きい。
 弁護側は最新のDNA型鑑定を提出し、衣類の血痕は袴田さんや被害者のものではないと指摘した。司法制度改革を受けて約600点の証拠も開示され、事実認定に疑問を抱かせる証言や物証も明らかになった。
 刑事裁判は、検察官に犯罪の立証責任がある。証明できなければ被告人は無罪とするのが原則だ。証拠に疑義が出たとなれば、犯罪の立証の根拠が揺らぐ。
 静岡地裁はこれらを受け、再審開始と拘置の停止を決めた。衣類は捜査機関が捏造(ねつぞう)した証拠である可能性にまで言及した。極めて重い判断といってよい。
 検察側が即時抗告した東京高裁では、弁護側の鑑定手法の科学的有効性が最大の争点だった。同高裁は検証実験の結果から弁護側鑑定の問題点を指摘し、地裁が「鑑定手法を過大評価している」として決定を取り消した。
 鑑定の技術が進んだとはいえ、事件発生から半世紀以上がたつ。信頼性が問われるのは当然であろう。鑑定手法も再現できる客観性の高いものでなければならない。
 ただ、弁護側の鑑定に疑問が残るとしても、死刑判決を導き出した裁判の疑問点が解消されたわけではないだろう。証拠の再点検は不可欠ではないか。
 取り調べで「自白」を迫られる録音テープの存在も明らかになっている。死刑判決を書いた静岡地裁の元裁判官が、自白の任意性に疑問があるなど公判当初から無罪と考えていたと主張していることも重い。
 こうした観点から司法が再審の扉を閉ざすことには疑問が拭えない。やはり裁判をやり直し、真相を徹底究明することが望まれる。
 弁護側は最高裁に特別抗告する方針だ。第2次再審請求は既に10年を費やしている。袴田さんが高齢であることを踏まえても、最高裁で長い時間を要することは避けなければならない。
カテゴリー: 社説


ページトップへ