2018.06.07 08:00

【あすの会解散】被害者支援はなお途上だ

 わが国の犯罪被害者は、どこからも保護を受けない、あたかも国籍を失ったような存在であることが分かってきた―。
 自らも妻を殺害され、長く活動の中心を担ってきた岡村勲弁護士(宿毛市出身)は、会の公式サイトに設立時の趣旨をそう記している。
 犯罪被害者の権利の確立や支援を目指し、2000年1月から活動してきた全国犯罪被害者の会(あすの会)が解散した。
 会員の高齢化などを解散の理由に挙げた一方、「18年間で、被害者の司法における立場は格段に向上した」と活動を総括した。
 日本の刑事裁判は、冤罪(えんざい)事件への反省などから被疑者の人権擁護に力が注がれる一方、被害者やその家族の権利は長く置き去りにされてきた。被害者側は当事者としての権利がなく、捜査当局の「証拠品」にすぎないという批判すらあった。
 あすの会が、被害者側の司法参加に慎重な弁護士団体や法学者らと対峙(たいじ)し、大きな転換を促してきた功績は大きい。
 国は05年、被害者の保護を国、自治体の責務とする犯罪被害者基本法を施行。刑事司法が社会の秩序維持だけではなく、被害者や家族のためでもあることを明記した。
 08年には改正刑事訴訟法が施行され、被害者参加制度が始まった。黙って傍聴席に座ることしか許されなかった重大事件の被害者や家族は、法廷で被告人に直接質問し、求刑に関して意見を述べることができるようになった。
 殺人など最高刑が死刑である凶悪犯罪の公訴時効も、10年に撤廃された。長い時間がたっても処罰感情は薄れない、という遺族の心情が受け入れられた形だ。
 いずれも被害者側の権利に光を当て、心理的負担や司法への不満を軽減する法改正だ。「これから被害に遭う人たちに、自分たちと同じ苦しみを味わわせない」と訴えてきた執念が社会の共感を得て、結実したといえる。
 しかし、被害者対策は途上でもある。課題の一つには、支援の面で補償の充実を残している。
 17年度に犯罪被害給付制度に基づき、事件の遺族や被害者らに支払われた給付金は対象が計414人、総額で約10億100万円だった。
 犯罪に遭った被害者の肉体的、精神的なダメージはその後も続く。働き手が被害者になった場合、残された者は経済的に困窮する。まだまだ支援は不十分である。
 警察庁は今春から、原則不支給だった親族間の犯罪で、遺族が18歳未満の場合は支給を認めるなど制度の見直しを進めている。被害者や家族を公的に支え、社会全体で守っていく仕組みの拡充は今後も問われる。
 インターネットを背景にした事件や通り魔など、誰もが被害者になる恐れがある犯罪が後を絶たない。あすの会は解散に当たって今後の対策を国と国民に求めた。重く受け止めなければならない。
カテゴリー: 社説


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