2018.06.04 08:00

【所有者不明土地】是正論議には透明性保て

 所有者が分からない土地は全国に2016年時点で約410万ヘクタールあるという。四国のおよそ2・2倍の面積に匹敵する。
 公共事業への支障や不法投棄といった深刻な事態を招いていることは想像に難くない。政府が対策へ基本方針を公表した。
 現行制度で任意となっている相続登記を義務化し、相続人が条件付きで所有権を放棄できる制度を設ける検討をする。
 一定期間管理されていない土地は所有権を手放したとする「みなし放棄制度」の創設も論議するという。放棄した土地の帰属先は国や自治体が想定されている。
 社会全体の利益を確保する上では制度を現実の課題に即して見直すことは必要だろう。一方で、憲法が保障する財産権を制約してしまう重い課題も生じる。
 政府は20年までに必要な法改正を目指す方針だが、慎重かつ透明性の高い議論が求められよう。
 所有者不明の土地の増加は山林や農地を中心に以前から指摘されてきた。最近では宅地も加わってきた。
 背景には相続登記の問題がある。手続きの煩雑さや経費面から登記されていないケースが目立つ。登記しなくても実生活に大きな影響がないことも大きい。
 相続人が代替わりを重ねると権利者が増え、手続きはさらに複雑になる。都会に生まれ育ち、土地の場所を知らない相続人も少なくない。
 こうした問題は東日本大震災後に注目されるようになった。復興事業などで土地の買収や所有者の整理をする際、相続人捜しや手続きに多くの労力と経費を費やしたからだ。国が対策を先送りしてきたつけが一気に噴出したといえる。
 このまま問題を放置すれば、事態はより深刻になりそうだ。
 民間有識者でつくる研究会は、40年時点で所有者不明の土地は約720万ヘクタールに達すると推計している。九州の2倍近くに及ぶ広さで、それらが及ぼす経済損失も累計で約6兆円に上るという。
 不動産を巡る環境は現に厳しい。相続に合わせて不要な土地を売ろうにも、買い手が見つからない例が都市部でも広がりつつある。「負動産」と呼ばれるゆえんだ。
 日本人にとって、土地は財産であり、戦後の高度経済成長とともにその価値は高まっていった。これまで培ってきた土地制度は地価高騰や乱開発の抑制を意識したものであり、現在のような過疎化や価値の喪失を想定していないといってよい。
 土地制度は南海トラフ地震の防災対策や復興を考えても見直しが急がれる。基本方針では登記の義務化は手続きの簡素化とともに論議する。登記官に所有者を調べる権限を与えることや、戸籍と登記簿を一括管理する是非も検討するという。
 相続が分かりやすくなる利点はあるが、個人情報の扱いが気になる。こうした点からも安易な方向性や法案づくりは禁物だ。
カテゴリー: 社説


ページトップへ