2018.06.03 08:00

【防衛大綱提言】一線を越える恐ろしさ

 自民党の安全保障調査会などが、政府による防衛大綱の見直しや中期防衛力整備計画の策定に向け、提言をまとめた。
 防空や災害救援の活動拠点にする「多用途運用母艦」の早期実現や、敵のミサイル基地をたたく「敵基地反撃能力」の保有の検討などを求めた。防衛費の大幅増強を要請したことも特徴だ。
 中国による海洋進出や北朝鮮の核・ミサイル開発は依然、予断を許さない。日本の警戒が怠れないのは確かだ。
 しかし、提言は憲法に基づく専守防衛の基本方針などを揺るがしかねない内容が目立つ。
 財政面からも疑問が拭えない。高齢化が進む日本は社会保障費の膨張が続いている。国と地方を合わせた債務残高が1千兆円を超える中、防衛費にこれ以上の予算を回す余力はないはずである。
 政府は大綱を年末にも決定する方針だ。冷静な論議が求められる。
 多用途運用母艦は、ことし3月に作成した提言骨子の段階では「多用途防衛型空母」としていたが、名称を改めた。
 ヘリコプター搭載型護衛艦を改修し、垂直に着陸できる最新鋭ステルス戦闘機を搭載する方向性は変わってないようだ。提言にはその戦闘機の取得も盛り込んでいる。
 事実上の「空母」といえるが、空母は専守防衛のための配備を明らかに超える。世論の反発を意識し、名称を変えたのだとしたら、国民をだますやり方だと批判されても仕方がない。
 敵基地反撃能力とセットではないのか、との疑念も湧く。自民党は、この能力は憲法上認められない「先制攻撃」とは違うとし、「反撃」を強調するが、違いは分かりにくい。そもそも実戦で、これらは明確に線引きできるものだろうか。
 地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の早期整備に加え、敵の射程圏外から反撃できる長距離巡航ミサイルの取得も提言した。サイバー攻撃能力の保有の検討も求めるなど、より積極的な攻撃体制を目指している印象だ。
 集団的自衛権の行使に道を開く安保法が成立し、与党に専守防衛からの逸脱や、米軍と自衛隊の一体化に抵抗感がなくなってはいないか危惧する。
 防衛費は具体的な数値は盛り込まなかったが、北大西洋条約機構(NATO)が対国内総生産(GDP)比2%を目標にしていることを参考に、必要かつ十分な予算を確保するよう要請した。
 第2次安倍政権の発足以降、防衛費は6年連続で増加し、既に年5兆円を突破している。それでもGDP比は1%以内を目安にしてきた。2%になれば10兆円を超える計算になる。社会保障費の3分の1に匹敵する規模だ。
 国家予算は打ち出の小づちではない。無責任な提言は防衛どころか、国を自壊させかねない。
カテゴリー: 社説


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