2018.05.27 08:00

【カンヌ最高賞】弱者の目線に世界が共感

 映画監督、是枝裕和さんの最新作「万引き家族」が、カンヌ国際映画祭で最高賞の「パルムドール」に輝いた。
 世界最高峰とされる映画祭で日本映画が同賞を受けるのは、今村昌平監督の「うなぎ」(1997年)以来21年ぶり5作目となる。邦画の歴史に新たなページを開いた快挙を喜びたい。
 是枝作品では「誰も知らない」(2004年)で柳楽優弥さんが男優賞を、「そして父になる」(13年)が審査員賞をそれぞれ受賞している。同映画祭の常連であり、脚本や演技指導、撮影などすべての面で高く評価されてきた。
 「万引き家族」は年金を頼りに、足りない分は子どもに万引させて補う一家の日常を描いている。親の死亡届を出さずに年金をもらい続けて暮らす年金不正受給事件から、着想を得たという。
 「誰も知らない」も実際にあったネグレクト(育児放棄)事件がテーマだった。父親が違う4人の子どもをアパートに置き去りにして、母親が新しい恋人と暮らし始める。
 随分と身勝手な母親だが、是枝さんは彼女を断罪するような描き方をしていない。人間はなぜ過ちを犯すのか。社会がそうさせてしまう側面がありはしないか。
 「非人道的な振る舞いは許せない」「犯罪だから悪い」で済ますのではない。なぜそんなことが起きたのか、当事者の側に立って徹底的に掘り下げる。そうすることで今まで見過ごされがちだった、新しい何かが見えてくる。
 病院での子ども取り違え事件を扱った「そして父になる」も同様だろう。一般に家族は血のつながりが重視される。しかしたとえ血はつながっていなくても、一緒に過ごした時間の長さや濃密さによっても家族の絆は生まれはしないか。映画はそう問い掛ける。
 是枝作品を見て感じるのは、先入観を排除して考えること、当たり前だと思われている価値観を疑ってみることの大切さである。
 カンヌでの最高賞もそれと無関係ではあるまい。
 広がる格差社会は今や世界の普遍的な問題である。万引や年金の不正受給に手を染める。ネグレクトをやめられない…。セーフティーネット(安全網)からこぼれ落ち、片隅に追いやられる人はどこの国にもいる。弱者の目線で社会を丁寧に描く是枝作品に、世界の共感が集まるのもうなずけよう。
 先入観に縛られず、相手の立場に立ってとことん考える―。是枝作品が示す寛容さは、人種や宗教などさまざまな問題で分断が深まる世界にあって、人と人とを結び直すための大切な一歩でもあろう。
 小津安二郎、成瀬巳喜男、山田洋次…。巨匠たちが描いてきた家族の姿と、是枝作品のそれとはまたひと味違う。日本映画の豊かで多様な世界を、次の世代にもしっかりつなげていきたい。
カテゴリー: 社説


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