2018.05.20 08:00

【ずさん労働調査】働き方改革の根拠揺らぐ

 あまりにずさんだ。厚生労働省の全ての調査でデータの信用性が問われかねない。
 裁量労働制に関する不適切なデータ処理が発覚した厚労省の労働時間調査で、新たに一般労働者でも966事業所の調査で異常値やミスが見つかった。
 全国1万1575事業所を対象にした「2013年度労働時間等総合実態調査」で、裁量制の調査対象1526事業所と合わせると、ずさんなデータは計約2500事業所、全体の2割に上る。
 厚労省はこれらを削除した上で、なお9千超のサンプルが確保されているとして、調査自体は有効との認識を示している。だが、原因の検証などは不十分だ。調査への疑義は増すばかりだ。
 労働調査は、政府が最重要課題として今国会に提出した働き方改革関連法案の基礎資料の一つだけに、法案の根拠や正当性が揺らぐ。野党の反発も強まっている。
 安倍首相は当初、あらかじめ決められた時間を働いたとみなす裁量制の労働時間は一般労働者より短いデータもあると主張していたが、質問条件が違う調査で比較していたことが判明。そのデータも「労働時間が1日1時間以下」といったでたらめだらけだったことが分かり、裁量制拡大の法案は削除に追い込まれた。
 厚労省が調査を精査した結果、一般労働者でも「残業時間が1日45時間、1カ月で13時間24分」といったあり得ない数値が次々見つかった。異常データを除いて再集計すると、一般労働者の残業時間は当初集計より短くなったという。
 労働環境の改善を託された省庁として、職責への自覚の欠如さえもが疑われかねない。健康被害の防止などを願う労働者への裏切り行為にも等しい。
 事業所への訪問調査に当たった労働基準監督官からは、調査時間の制約で「まともに調べられなかった」との証言が聞かれる。厚労省も「調査方法などを徹底できなかった」と認めるが、国会で野党の指摘がなければ、ずさんデータがまかり通っていた可能性がある。
 厚労省は労働基準監督官への聞き取り調査もせず、再発防止策もまだ示していない。一方で、関連法の焦点である「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」を巡り自民党が日本維新の会の要請に応じ、一部修正の検討に入った。他の野党の反対を押し切って、会期中の成立を目指す強硬姿勢が透ける。
 国民は決して急いでない。共同通信の世論調査でも高プロの法案を「今の国会で成立させる必要はない」が7割近くに上る。法案への強い不信感の表れだ。
 過労死や過労自殺を招いている長時間労働などの是正は喫緊の課題であり、労働者も待ち望んでいる。だが、実態と懸け離れ、実効性が担保されない制度改正は禍根を残すだけだ。政府には丁寧な説明と国会審議への誠実な対応が求められる。
カテゴリー: 社説


ページトップへ