2018.05.08 08:00

【ノーベル文学賞】世界の信頼を裏切った

 世界で最も有名で権威があるとされる文学賞に大きな傷が付いた。
 ノーベル文学賞の今年の発表が見送られることが決まった。選考主体であるスウェーデン・アカデミーを舞台にした性的暴行など、数々の疑惑が原因である。
 受賞作が決まったら、たとえそれが未知の作家であっても一度は手に取って読んでみたいと思う。ノーベル文学賞はさまざまな本と出合う貴重なきっかけとなる。それだけに見送りは残念と言うほかない。
 疑惑を巡っては権威と秘密主義が結び付いたアカデミーの組織的、構造的問題が指摘されている。疑惑を解明しアカデミーを立て直せなければ、世界の文学ファンから寄せられてきた信頼は地に落ちよう。
 発端はアカデミーの女性メンバーを妻とする男性が、性的暴行やセクハラを行ったとする疑惑。さらに男性が妻から得た受賞者名を、発表前に漏らした疑いが浮上。男性が運営する文化団体にアカデミーが資金を提供していることにも、不透明さが指摘されている。
 男性は疑惑を否定しているが、アカデミーは性的暴行疑惑などについて「受け入れられない振る舞い」があったと断定。誰が行ったかは明らかにしていないが、受賞者名の漏えいがあったことも認めている。
 アカデミーのメンバーは作家や言語学者ら18人。終身制で辞任できない仕組みだったが、これまでにアカデミーの対応の甘さなどに反発した8人が活動を停止し「機能不全」に陥っていた。今年の選考は事実上、不可能だったろう。
 今年の発表分は2019年の受賞者と合わせて発表されるというが、それで済む問題ではない。
 アカデミーの言う「受け入れられない振る舞い」とは何か。スウェーデン紙は1996~2017年に、少なくとも18人の女性が被害に遭っていたと報じている。アカデミーは事実関係をもっと詳細に明らかにしなければならない。
 英国のブックメーカー(賭け屋)は毎年、受賞者を予想しているが、発表直前に人気上位に躍り出た作家が受賞するケースも珍しくなかったという。一般には候補者さえ分かっていない段階でなぜ、こうしたことが起こるのか。仮に漏えいした情報が関係しているとすれば、多額の金銭も動くだけに看過できない。
 漏えい者を特定していないアカデミーの姿勢が、不誠実と見られても仕方ないだろう。
 一般に不祥事は、同一人物が同じポジションに長く携わっていることから生じやすい。ノーベル文学賞も選考メンバーは原則代わらず、選考経過も50年間明らかにされない。この閉鎖性が賞を権威付けた面もあったろうが、癒着などを招く温床になってこなかったか。
 より客観性や透明性を高めた手法でも文学は評価できる。求められているのは選考への信頼を揺るぎないものにする不断の改革だ。それはノーベル賞の他の分野も同じである。
カテゴリー: 社説


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