2018.05.04 08:00

【過労死防止大綱】個人任せでは解決しない

 過労死は、「karoshi」として国際的に批判されている。要因の長時間労働は長年、積み残してきた日本の社会構造の問題だ。もう改善されなければならない。
 過労死や過労自殺をなくすために国が進める対策方針をまとめた「過労死防止対策大綱」が今年、3年ぶりに改定される。厚生労働省がこのほど見直しの素案を示した。
 大綱は、対策は国の責務と定めた過労死等防止対策推進法に基づき、2015年に「過労死ゼロ」を目指すとして閣議決定された。
 ところが、この3年間にも社会に衝撃を与える問題が相次いでいる。電通の女性社員の過労自殺や、NHK女性記者の過労死が労災認定された事例など枚挙にいとまがない。
 厚労省によると、16年度に精神疾患で労災認定されたケースは過去最多になり、未遂を含む過労自殺は84件あった。脳・心臓疾患の労災認定は260件で過労死に至ったのは107件。これはあくまで申請、認定された数で、氷山の一角ともいわれる。
 大綱の見直しの素案は、「勤務間インターバル制度」を普及させるため数値目標を設定する▽企業による労働時間の把握は、ICカードなど客観的な方法を指導する▽自動車運転従事者や医療、メディア関連の業種などを実態把握の重点業種とする―ことが柱になっている。
 このうち、勤務間インターバルは有効性を評価する専門家も多い。終業から次の始業までに一定の休息時間を保障する仕組みだ。欧州では既に導入されており、ドイツの労働時間法は最低11時間としている。
 厚労省も17年度に導入した企業への助成制度を創設した。しかし昨年の調査では、導入した企業はわずか1・4%にすぎず、92・9%が検討すらしていないと答えた。4割を超える企業が「制度を知らなかった」としている。
 別の調査では導入した企業でも、確保しなければならない時間はドイツよりも大幅に短い「7~8時間」との答えが最も多かった。まず、企業側が長時間労働の是正への認識を高めていくべきだろう。
 政府が働き方改革関連法案を国会に提出し、後半国会での成立を目指している。ただ、安倍政権の不祥事の究明が焦点になっており、十分な審議ができるかは不透明だ。
 残業の上限規制にも異論は多い。「原則月45時間かつ年360時間」と明記し、繁忙期は「月100時間未満」と「過労死ライン」を設定している。悲劇が続く労働環境の改善よりも、経営者側への配慮が先に立っていないか懸念が残る。
 女性記者の過労死が労災認定されたNHKの幹部は、「個人の取材の仕方や裁量に任せる働き方だった」と反省を口にしている。企業、使用者側は頑張る社員、職員に頼りすぎていないか。長時間労働の是正を個人任せにしてはならない。
 新しい大綱は今夏にも閣議決定される。国はもちろん企業側も真剣に向き合う意識が必要だ。
カテゴリー: 社説


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