2018.05.03 08:00

【国民と改憲案】急ぐ必要性は全くない

 安倍首相が「2020年の新憲法施行」「9条への自衛隊明記」など改憲に向けた独自案を表明したのは昨年の憲法記念日だった。ちょうど1年になる。
 その後も、昨秋の臨時国会に自民党改憲案を提出する意向に言及するなど首相の前のめり姿勢は続き、自民党は党内論議を急いできた。この3月には4項目の改正条文案をまとめている。
 9条については戦力の不保持と交戦権の否認をうたう2項を維持しつつ、自衛隊の保持を明記したが、異論を押し切っての集約といわざるを得ない。他の3項目は教育充実、緊急事態条項の新設、参院選「合区」解消だ。
 自民党は、他党と協議するための「たたき台」と位置付け、衆参両院の憲法審査会で具体的な議論を進めて年内の国会発議を、と考えているようだ。だが、党内の詰めが十分とは言い難い改憲案を示されても他党は困るし、国会は落ち着いて論議を重ねられるような状況にはない。
 何より、多くの国民の視線は冷ややかだ。共同通信社が実施した憲法に関する世論調査の結果が、安倍自民党と国民世論の距離を映し出している。
 改憲案の4項目全てで「反対」や「必要ない」といった否定的な回答が上回った。このうち9条改正については不要と必要の差はわずかだったものの、他の3項目はかなりの開きがある。
 改憲を「必要」「どちらかと言えば必要」とする人は58%で、その6割強が「条文や内容が時代に合わなくなっている」と答えている。にもかかわらず、全体でみれば4項目に否定的なのは、改憲の必要性が差し迫ってはいないからだろう。
 安全保障法制のような解釈改憲ではなく、明文での改憲をしないと対応できない深刻な事態が生じたのであれば、状況は異なるだろう。政権や与党はむろん、野党も巻き込んで議論されるはずだし、国民の理解も進むに違いない。
 世論調査で61%の人が安倍首相の下での改憲に反対していることも、国民の冷静な受け止めを物語っていよう。安倍内閣の支持率が高いときでも、この拒否感が強い傾向は変わらない。
 首相が前のめりになるのは、改憲が宿願になっているからだろう。その中心には9条がある。首相が前に出るにつれて、多くの国民は「アベの改憲」と受け止め、平和主義がなし崩しになりかねない危険性への懸念を強めている。
 平和主義とともに、国民主権、基本的人権の尊重はゆるがせにできない憲法の基本原則だ。明文であれ、解釈であれ、改憲によってわずかでも後退するのであれば、それは改悪といわざるを得ない。
 国民の必要性からではなく、為政者の思惑で改憲が進められようとする。政治と国民の間につくり出された隔たりは、基盤である「立憲主義」の危機を映し出す。
カテゴリー: 社説


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