2018.03.19 08:00

【緊急事態条項】改憲の必要があるのか

 自民党の憲法改正推進本部が、9条などとともに論議している、緊急事態条項を新設する改憲案を大筋でまとめた。
 大地震などの災害によって国会が十分に機能しない場合、内閣が法律と同じ効力を持つ政令を制定できるなど、政府の権限を強化する内容が柱になるとみられる。
 だが、緊急事態に対応する規定は災害対策基本法など現行法にも設けられている。乱用の恐れや、国民の私権制限の拡大につながりかねない条項を新設する必要性があるとは思えない。
 条文案は、緊急事態を「大地震その他の異常かつ大規模な災害」と定め、国会が法律の制定や予算の議決をできない場合は、内閣が「政令を制定し、財政上の支出その他の処分を行うことができる」と明記する見込みだ。
 国会の事後承認が必要とはいえ、内閣に立法機能が与えられることになる。大災害の基準や内閣が制定する政令の範囲も不明確なまま、「国権の最高機関」である国会の権能を奪うことは、三権分立の崩壊につながりかねない。
 現行の災害対策基本法は国会閉会中に、内閣が生活必需品の統制など国民の権利を一部制限する政令を制定することができると定めている。市町村長には住民の避難指示、警戒区域の設定と立ち入り制限など、多くの強制権がある。緊急事態にも十分に対応できる。
 もし災害対応の強化が目的というのであれば、現行法の問題点などを洗い出し、必要な改正をするのが先だろう。運用の改善などで強化できることも少なくないはずだ。
 条文案には、大規模災害時に国会議員の任期延長を可能とする規定も盛り込む。だが、仮に衆院解散時であっても参院の緊急集会が立法機能を果たせることから、延長の必要性はないとの異論も根強い。
 緊急事態条項の新設には、連立を組む公明党からも「わざわざ憲法に明記するのは理解できない」との批判が出るほどだ。必要性への強い疑問といってもよい。
 自民党が2012年に決定した党改憲草案は、自然災害のほか、武力攻撃や内乱などの際に首相が緊急事態を宣言し、政府への権限集中と国民の私権制限ができることを明記している。
 条文案が大規模災害に限定したのは、公明党や野党の理解を得やすくするためのようだ。推進本部の細田博之本部長は「問題提起の第一歩」とも述べている。立憲主義という縛りから権力を解き放ち、過度に人権を制約するような暴走につながりかねない危うさがある。
 「国民の生命、身体や財産を保護するため」と言われると、その方向につい引きずられるが、危険性を知り、本当に必要なのかをしっかりと考える必要がある。他の9条や教育充実、参院選「合区」解消も同じだ。「改憲日程ありき」の拙速な議論は到底容認できない。
カテゴリー: 社説


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