2018.02.21 08:25

いのぐ 高知県内3大学生が地震対策研究

 巨大地震を研究する―。間もなく東日本大震災から7年。あの日を境に、地震に対してさまざまなアプローチが各地で試みられるようになった。高知県内にも大学や大学院で防災を学んでいる学生がいる。この春、社会へと一歩を踏み出す3学生の研究を紹介する。そこからは南海トラフ地震に向けて必要な備えが見えてくる。


津波による橋の流失予測を研究した沢田真衣さん(香美市の高知工科大香美キャンパス)
津波による橋の流失予測を研究した沢田真衣さん(香美市の高知工科大香美キャンパス)
橋の津波流出防ぎたい 高知工科大大学院・沢田真衣さん
 橋が津波で流失する可能性を調べる―。高知工科大学大学院の工学研究科、沢田真衣さん(24)=四万十市出身=が修士論文に選んだテーマだ。

 土木学会の調査によると、東日本大震災の被災地では1793の橋のうち14%に当たる252橋で橋桁が流失したり、橋台が倒れたりするなどの被害が出た。

 「高速道路など大きな構造物の地震対策はされてきたけど、津波で橋があれだけ被害を受けるとは考えられてなかったんです」と沢田さん。橋の被害は救援や復旧活動に大きく影響する。

 そこで、個々の橋の被害予想ができれば、橋の補強や、災後の復旧計画に役立つのではないかと考えた。

 より詳細に調べようと、土木学会が用いてきた従来の評価手法に独自の視点を加えた。津波が橋に与える衝撃のパターンを複数設定し、津波による浮力や橋の上部構造と橋脚部分をつなぐ部分の耐力も考慮した。

 東日本大震災で流失した橋にこの手法を当てはめたところ、従来の評価手法より実際の被害と一致する結果が出た。

 橋の建設時期や構造などの情報を基に被害を予測することができるといい、「流失する可能性のある橋が分かれば、補強の優先順位を考えることができる」と沢田さん。研究を通じ、復旧のためには複数の物資搬送ルートを想定しておく必要があると指摘する。

 今春から四国内を管轄する建設コンサルタントに入社する。橋の劣化状態を点検する業務も行う会社で、「研究や仕事で得た技術を高知にも還元したいですね」と将来を見据えていた。


地元・御畳瀬の津波避難について研究した川村日成さん(高知市御畳瀬)
地元・御畳瀬の津波避難について研究した川村日成さん(高知市御畳瀬)
避難対策はきめ細かく 高知工科大大学院・川村日成さん
 「御畳瀬で避難について研究したい」

 高知工科大学大学院工学研究科の川村日成(ひなり)さん(24)は実家がある高知市御畳瀬を研究の舞台に選んだ。

 同地区は20~30分で高さ30センチの津波が到達するとされる。地区で暮らす約330人のうち半数が65歳以上の高齢者で、若い人以上に避難行動に時間がかかることが想定される。

 川村さんが行った研究は、地形や想定される被害を基に、避難ルートをどう確保するかという内容。

 住民が避難面でどんな不安を感じているかをアンケートした。その結果、「傾斜(避難路の階段)に対する身体的不安」「(家屋などの倒壊による)道路閉塞(へいそく)」を挙げる人が多いことが分かった。

 同地区にある避難場所は6カ所。成人の歩行速度を基に直線距離で単純計算すれば、例えば5分でどの家からもいずれかの避難場所まで行けることになる。しかし、実際には高低差があり、上り坂を考慮すれば、むしろ多くの人が5分では避難場所に行けない。

 さらに、住宅が多い2エリアでは、古い耐震基準で建てられた住宅が倒れることが想定され、避難路の48~51%が通行できなくなることも分かった。

 「避難に影響を与えるルートを割り出すことができた。耐震やブロック塀の除去などを優先して行うルートを話し合うことができれば多くの人の命が助かると思う」と川村さんは話す。

 卒業後は関東圏の高速道路の維持管理を行う会社に就職する川村さん。「地震などの非常時でも、普段通り道路が使えるようになるための力になりたい」と話していた。


高知大学内にある高知市の防災倉庫と藤田晋太朗さん(高知市曙町2丁目)
高知大学内にある高知市の防災倉庫と藤田晋太朗さん(高知市曙町2丁目)
具体情報基に準備必要 高知大・藤田晋太朗さん
 高知大学人文学部4年の藤田晋太朗さん(22)は学生の防災意識についてアンケートを行い、卒業論文にまとめた。地震発生はイメージしていても、具体的な知識や対策は乏しいことが分かった。実効性を高めるためには「具体的な情報を伝えることが大事」と訴える。

 アンケートは学生87人を対象に実施。「地震が発生した場合、どこに避難して、生活すればいいかイメージできるか」の設問では半数の44人がイメージできていると回答した。

 ただ、「イメージできている」と答えた人でも、6割が家具の転倒対策を「行っていない」と回答した。自宅の耐震状況も「知らない」「分からない」が7割を超えた。

 条件を変えた比較調査も。回答者の半数には「大学体育館の収容人数約770人に対し、予想される避難者数9700人以上」「大学に備蓄食料は1日分もない」といった情報を提示した上で答えてもらった。

 その結果、こうした情報を知らされた上で回答した人は、知らされなかった人より「防災袋を買いたい」「ボランティア活動をしたい」と答えた割合が高かった。

 これらの結果から藤田さんは「想像だけで防災への意欲を持つのは難しい」と指摘。被災経験の不足を補うには、具体的な情報が必要だとする。

 卒業後は故郷の愛媛県西条市で消防士として働く。「避難訓練をして、参加者が『意味がなかった』と思うような緊張感がない訓練はしたくない。地域の状況を調べて、具体的にイメージできるやり方を考えたい」と語った。

備防録 若い力
 今回紹介した3人のうち高知工科大大学院の2人は、東日本大震災が起きた直後の2011年に大学に入学した。高知大生も含め、入学当初から防災研究を志していたわけではない。

 震災の惨禍を繰り返さないため自分に何ができるか―。日々の学びや教員との出会いを通じて、たくさんの研究テーマの中から防災を選び取った。

 研究に限らず、県内の大学ではサークルやボランティア活動を通じて被災地を支援したり、地域と一緒に防災訓練を企画したりする学生も少なくない。

 次の南海トラフ地震で命を守り、つなぐ現場の主役を担うだろう学生たち。「震災後」を生きる、若い力ならではの探究力や行動力を頼もしく思う。

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カテゴリー: 社会いのぐ災害・防災


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