2002.02.11 11:20
土佐の果物語(8) 第1部 (8=終)収穫 最高は1玉8000円
その時期には少し早いが、今月上旬、和田憲一朗さんの園で新高ナシもぎを体験した。
妻の雪鶴(せつ)さんが新高ナシを包んだ新聞紙を指でビリッ。園の中で熟れた果実を選んで順に収穫していくのだが、一部分しか見えない果皮の色を頼りに取りごろを判断するのは至難の業だ。素人にはおいしそうに見えても、「まだ早いねえ」。取るのを待つ玉もある。
さて、もぎ方。
「持ち上げてみて。なっているのと逆方向に」
雪鶴さんの指導で新聞紙に包まれたままの果実を両手で包み込むようにして、そうっと持ち上げる。と、あら不思議。実の軸がいつの間にか枝から離れていた。はさみで切るとばかり思っていた素人は驚いた。
実はこの軸(果梗=かこう)にも高知県ならではの特徴がある。
県外産は輸送時に果実にキズをつけないため、軸を短く切ってある。対照的に県内産はピンと飛び出ているのがほとんど。「軸が真っ黒になって枯れているのは、枝から落ちて新聞紙の中で時間がたっています。実が硬い」と雪鶴さん。軸が新鮮さを確かめるバロメーターになっている。
連年の不作に見舞われた県内の新高ナシ農家にとって、ことしは勝負の年だった。結果は?
「腐りも少ないし、実が順調に太っている」と高知市針木のナシ作り名人、川渕知巳さん。高知市内の青果店主も「シャリシャリ感があっておいしい」。いずれも上々の評価。
高知県産新高ナシ、特に針木産は安くない。消費者への販売価格は一キロ級が一玉三千-五千円。最高級の一・三キロ超は八千円もするらしい。青果店主によると、
「新高ナシの味は風土がつくっていく味ですね。それに面積の少なさ、風味などの希少性への市場評価が加わります」
人に負けないものを作りたい、おいしいものを食べてもらいたい――そんな生産農家の思いが珠玉のナシを生んだ。逸品を口に運びながら、土佐に生まれた幸せを思う。(経済部・竹村朋子)