2002.02.11 11:50
土佐の果物語(5) 第1部 (5)壊滅 連年の「異常気象」
「何で、はようナシを取らんかったろうかと思うた」と、高知市針木のナシ作り名人、川渕知巳さん(76)が振り返る。
この年、夏場に雨がほとんど降らなかった。七月は後半に降ったが、八月はわずか一二・五ミリ。九月に入っても変わらなかったが、下旬に豪雨が見舞った。気温もおかしかった。四、五月の平均気温は例年を三度も上回っていた。
「ナシがおかしいと思うたのは八月の末。十月半ばごろみたいな肉質と色合いになっちょった。えらいはよう熟れると思うたが、十月にならんと味が乗らんという先入観があった。そうこうしよったらあの豪雨。取り出したら、実の先から水色になって腐っちょった」
県内産地のほとんどが壊滅的な打撃を受けた。この時、新高ナシに見られたのが「みつ入り症」だ。
リンゴの場合、みつは高品質といわれるが、ナシは品質が低下する。ナシ特有のシャキシャキ感がなくなり、ひどいものは商品価値がなくなる。県果樹試験場の伊藤政雄さんは、「八、九月の成熟期の高温と雨不足が原因と考えられますが、熟度との兼ね合いもあるのではないかと研究を進めています」と言う。
翌十一年、新たな衝撃が走った。
実がスポンジ状になり、歯ごたえがなくなる「す入り果」が発生したのだ。中には握っただけでずぼっと指がナシの果肉に入り込むものもあった。半分以上のナシがこれでやられた。
雨量が多く日照不足だったことが原因らしいが、発生事例が少ないために「はっきりした原因は分からない」(同試験場)とか。
この不運な二年間で、少なからぬ農家が前途に不安を持った。
「もう、ナシを作れんなるかもしれん」
川渕さんがぽつり。数日後、別のナシ農家も同じ言葉を口にした。(経済部・竹村朋子)