2018.02.12 08:35

声ひろば 2018年2月12日、月曜日

1.父と万年筆
【水田節子、85歳、高知市】
 父はいつもニコニコというタイプではなかったが、雨の日や冬の農閑期には、私たち子供や近所の子も交えて、トランプ遊びをよくしてくれた。
 子供らはババカードを引くと、他の人にはバレないように澄ました顔をしていたが、父はわざと大げさに驚いて奇声を上げるので、それが面白くてみんなころげまわって大笑い。とても楽しかった。あの場面は幼い頃の楽しかった思い出の中の一つだ。今も耳に目に残っている。
 私は成人してから何回か引っ越しをしているうち、父にもらったヒョウタンの形をした桃色さんごの根付けと、学生時代に買ってもらった万年筆を無くした。気付いた時はほんとに“ほぞをかむ”とはこんな気持ちかと思い、長い間心のどこかに残り続けていた。
 後になって宿毛のダルマ夕日を見に行った時、さんごのヒョウタンは似たのを見つけて買い、思い出を取り戻した感がしていた。でも万年筆は、気にかかりながらもすっかりボールペンに慣れ切っていた。
 この正月明けて、ふと“アッそうだ今年の買い初めは万年筆にしよう”。あれこれ試し書きをし、透かし模様の入った濃(こ)赤紫の金ペンに決めた。積年の父への思いが修復され、私の宝物がよみがえった心地がしている。
 今までアチコチに行き楽しんだ体は衰え、行動範囲は狭まった。この万年筆で、心に映った日記のような物でも書いて、残りの人生を送りたいと思う。

2.感動を伝え続けたい
【浜田明人、56歳 個人塾塾長、高知市】
 1143円+税。先日私が買った書籍の値段です。これは高いでしょうか。それとも安いでしょうか。
 だれかが言っていました。書籍の値段の決め方はおかしいと。書籍は大きさや厚さ、そして装丁などで値段が決まっていて、内容の良しあしが加味されていない。私もそう思います。
 私が買ったのは「13歳からの道徳教科書」という書籍ですが、読んでみて日本人はやはり素晴らしいと、しみじみ感じました。
 同じ値段でも、中身のないような書籍もたくさんあります。しかし、このように人の心を洗い、人の心を温かくし、生きる気力を与える書籍もあります。
 そんな書籍は、本来もっと値段が高くあるべきだと思いますが、同じ値段で買えるので、買う方にとってはありがたいことかもしれません。この本を読んだ感動を、また生徒に伝えたいと思います。
 世の中には読んで心温まる話、勇気の出る話、生きていてよかったと思う話、そういう話がたくさんあります。子どもたちの糧となる書籍を読み、そしてその感動をもっともっと伝え続けたい。そう思っています。

3.困った病
【岩合可也、75歳、四万十市】
 1月分の高新文芸短編小説が発表された。年4回の募集のうち、3回は締め切りが掲載の前月末だが、1月分は20日になる。10日も早い。その上、年末の少々気ぜわしい時期で、私は、いつもながら推敲(すいこう)不足がよりひどくなる。
 そんな中で、とにかく書いてみた「鍵っ孤」も選評をいただいた。身辺の事ばかり取り上げるので、評でも「随筆と小説的な手法が交錯」とあった。よく受ける指摘である。ところが、同じ事を繰り返している。全くの手探りで、基本的な事は一切身に付けずに、ただ書いているので、一向進歩がない。小説と随筆の境界が曖昧模糊(もこ)のままだ。
 それでも、何かしら書かずにはいられない。書けば一仕事した気になれる。最大の生きがいだ。

4.信州珍味5種
【浜田健夫、69歳、非常勤公務員、高知市】
 高知新聞夕刊(1月29日付)の「国内外 昆虫食文化を紹介 長野で企画展」は懐かしい記憶を呼び起こしてくれた。
 私はかつて信州で約6年間仕事をした。赴任直後のこと、大口取引先の社長が私を招待してくれた。凝った民芸調の店で、信州名物として珍味5種というものを薦められた。
 珍味と言えば、ウニ、クラゲや、からすみなどを想像するが、全く違った。それは、蜂の子、ザザ虫、イナゴのつくだ煮、サンショウウオの干物、それに蚕のさなぎであった。
 初めて口にするものばかりだが、さなぎには参った。まず臭いがひどいし、口中にねっとりとへばりつく感触が気持ち悪い。思わず戻しそうになるのを我慢し、焼酎で流し込んだ。
 社長は東京から来た少し生意気そうな男を試したのだろう。これらは栄養満点で精力剤と笑っていた。
 私はこの日から信州人の仲間入りができたように思う。妻も地域の人と親戚付き合いをして楽しんだ。しかし、調子に乗りすぎて会社人生最大のピンチも経験した。
 長野は周囲を八つの県に囲まれていて広大だが、海がないので昆虫などは貴重なタンパク源なのだ。蜂の子取りやイナゴ狩りにはみんな夢中になる。
 この県は多くの藩や天領が合わさりできたので、歴史的に県民性は多様。信州珍味5種は信州の人々と同じく複雑な味わいで、私は忘れることができない。皆さんも怖がらずに一度は口にしてみては。将来昆虫食にお世話になる日が来るかもしれません。

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