2018.02.08 08:00

【米の核戦略転換】軍拡競争をあおるだけだ

 国際社会の大勢が望むのは核廃絶である。昨年7月に120カ国以上が参加し採択された核兵器禁止条約が裏付ける。その平和への願いを米国は踏みにじるのか。
 トランプ米政権が核戦略の新たな指針「核体制の見直し」を公表し、核兵器の役割や能力を拡大させる方針を打ち出した。オバマ前政権が国際社会に掲げた「核なき世界」の旗を消し去り、核兵器増強へかじを切る。
 「抑止力を高める」とその理由をうたい、ロシアや中国、北朝鮮を現実的脅威と位置付け、正当性を強調する。だが「核には核」という軍拡競争そのものではないか。
 東西冷戦の不毛な歴史を思い起こさせる。国際社会が目指す対話と協調の流れに水を差し、緊張の時代へと逆行させかねない。大国としての抑制も、思慮も欠く。
 新指針は、トランプ大統領が昨年発表した国家安全保障戦略の「力による平和」をそのまま映し込んだ内容だ。「米国第一」主義に基づき、軍事的な優位性で国際社会に君臨しようとする思惑だ。
 核使用の条件を広げる。通常兵器など核兵器以外の攻撃に対する報復手段として排除せず、サイバー攻撃への反撃も想定される。前政権が「極限の状況」に限った使用制限を大きく緩める。
 爆発力を抑えた小型核の開発も進め、「使える核兵器」の導入を目指す。機動性の高い水上艦や潜水艦の巡航ミサイルなどへ小型核を搭載することで、敵国への威圧を強める狙いだ。
 核の先制使用を辞さない戦術核配備を進めるロシアへの対抗や、軍事的台頭が顕著な中国へのけん制、さらに米国を狙った核・ミサイル開発に血道を上げる北朝鮮への現実的な戦略を描く。核の先制不使用も否定した。
 だが、核の使用拡大は敵対する国を刺激し、偶発的、突発的な衝突を引き起こす危険性を増すばかりだ。軍事的な緊張下では、常に不測の事態が起きかねない。軍事バランスの不安定化に乗じ、テロ組織への核流出も招きかねない。
 米国が核戦力を強めれば、他国がひるむとばかり考えるのは大国の思い上がりでしかない。
 「核の傘」に頼る日本も新指針の下に組み込まれる。日本政府は同盟国への「拡大抑止力」が強化されるとして歓迎する。北朝鮮情勢があるにせよ、被爆国として世界に呼び掛けてきた核廃絶の訴えの説得力が揺らぎかねない。
 新指針は同盟国にも「責任分担」を求めた。米国が指針に基づき海洋発射型の核巡航ミサイルを導入し、艦船の寄港を求めてきた場合、日本は非核三原則を貫けるのか。
 トランプ政権は世界情勢の緊張をあおり、同盟国の弱みにもつけ込みながら、米国の利益拡大を図ろうとしているようにしか見えない。国際秩序を乱すばかりだ。日本もその蛮行に追従することは許されない。
カテゴリー: 社説

ページトップへ