2018.01.31 08:00

【旧優生保護法】人道に正面から向き合え

 人類の悪質な遺伝形質を淘汰(とうた)し、優良なものを保存する―。これを優生思想、優生学という。
 古くからある考え方だが、近代科学での淘汰は自然淘汰ではなく、人為的に行われる。優良を自任する者による「命の選別」に通じやすい。
 1948年施行の旧優生保護法下で、知的障害を理由に不妊手術を強制された宮城県の60代女性が、国に1100万円の損害賠償を求める訴訟を起こした。
 旧法を巡る国家賠償請求は初めてだが、障害者らへの不妊手術は全国で広範囲に行われた。「被害者」はまだ数多くいるとみられる。
 「不良な子孫の出生防止」を目的とする旧優生保護法は、96年まで生き永らえている。驚くべき長さだが、その間、沈黙せざるを得なかった人も多いだろう。
 旧法は障害者差別に該当する部分を削除し、「母体保護法」に改正された。だが政府が謝罪や補償に乗り出すことはなかった。国は現在でも「当時は適法だった」との姿勢を崩していない。
 日弁連によると、国の統計報告などから、障害などを理由に不妊手術を受けたのは約2万5千人で、うち約1万6500人が本人の同意を得ずに行われた。
 また共同通信の調査によると、手術を施されたとみられる個人名が記された資料が、19道県に約2700人分現存していることが確認された。だが、国は個人資料の保存状況を把握していないという。
 国は少なくとも、長期間にわたる人権侵害の実態を調査すべきだろう。過ちは率直に謝罪する必要がある。救済は国会で議論してもよい。人道上の問題として、正面から向き合うべきだ。
 現代科学の進歩はめざましい。優生思想の周辺でも、複雑で微妙な問題が浮上している。妊婦の血液で胎児の染色体異常を調べる「新出生前診断」の広がりだ。
 2013年に臨床研究として始まった新出生前診断は、年々、施設の数や受診する妊婦が増えている。検査で異常が見つかった人のうち、9割以上が人工妊娠中絶を選択しているという。
 安易な選択は優生思想につながるという慎重論や、女性の自己決定権を認める容認論などがある。幼い命の問題だけに、選択に悩む夫婦も多いのではないか。
 不足している専門のカウンセラーを充実し、倫理面から十分に説明できるようにしてほしい。医学、社会学などの分野が集まり、丁寧に議論を重ねるべきだろう。
 ナチスドイツのユダヤ人虐殺などの歴史がある優生思想だが、現代とも無縁とはいえない。「障害者はいなくなればいい」。2年前、相模原の障害者殺傷事件で起訴された被告は話したという。
 そのような差別的言動や、旧優生保護法の「不良子孫」などという不寛容な言葉がはびこる時代に逆戻りしてはならない。
カテゴリー: 社説

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