2018.01.22 08:00

【オウム裁判終結】「なぜ」への思索続けたい

 「闇」で片付けては、何も解決にはならない。真相を明らかにして初めて教訓が見え、再びの過ちを防ぐ道が開ける。
 1995年の地下鉄サリン事件をはじめ、無差別テロなどで多くの人命を奪ったオウム真理教事件を巡る刑事裁判が事実上全て終結した。初の強制捜査から約23年がたつ。
 事件後に生まれた世代が成人になるほど長い時間を要した。狂信的な宗教団体による凶悪犯罪の歴史を伝えていかなければならない。
 松本智津夫死刑囚が1980年代に「教祖」となって立ち上げ、20~30代を中心に若者たちを引き寄せていった。バブル崩壊前後の90年代初めにかけ急速に信者を拡大し、高学歴の若者らが幹部になり、洗脳集団を形づくっていった。
 殺人をも正当化する「ポア」といったゆがんだ教義を若者らは信じ込んだ。猛毒のサリンを製造するなど武装化し、犯罪集団へと変容していった。
 サリン事件など教団による一連の犯罪被害の死者は29人、負傷者は6千人以上に上る。今も多くの被害者や遺族が心身の痛みに苦しみ、癒やされることのない日々に耐え暮らしている。
 若い信者ら190人以上が裁かれ、松本死刑囚ら13人の死刑が確定した。長い捜査と20年を超える法廷審理が続いたが、松本死刑囚は意味不明の発言を繰り返すばかりで、「なぜ」の核心部分は暗闇の底に沈んだままだ。
 信者は最大で1万人以上に膨らんだ。なぜ、若者たちは教団に居場所を求め、マインドコントロールというわなに落ちたのか。何が凶行に駆り立てたのか。
 人のつながりの希薄化や社会の閉塞(へいそく)感への不安から、心のよりどころを求めたのではないか、といった指摘もされた。どれも推察にとどまる。その謎の答えは、死刑囚たちの肉声からはついに聞き取れないまま終わろうとしている。
 今も松本死刑囚の教義に帰依し、オウム真理教を引き継ぐ宗教団体が活動を活発化させ、若者らが新たに入信している。何が引きつけているのだろう。
 松本サリン事件では被害者の男性を警察が犯人扱いし、報道機関も加担することになった。捜査の在り方や報道倫理が問われた。また、被害者や遺族が真相解明を求めた訴えが、裁判制度の改革にもつながった。オウム事件が日本社会に提起した課題は多い。
 神奈川県座間市で昨年起きた自殺願望者を狙った連続殺害事件など、動機が判然としない事件が後を絶たない。オウム事件に通底する背景があるのではないか。
 裁判の終結で、今後は死刑の執行に焦点が移る。当局は後継団体などの反応を警戒する構えだ。「オウムの闇」は終わっていない。そう言わざるを得ない現実が歴然と残る。オウム事件の「なぜ」への思索を止めてはならない。
カテゴリー: 社説

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