2017.12.15 14:35

火花 

徳永(菅田将暉)=左=と神谷(桐谷健太)。2人は本物の漫才師を思わせる熱演だ
徳永(菅田将暉)=左=と神谷(桐谷健太)。2人は本物の漫才師を思わせる熱演だ
笑いの世界で もがき続ける 若者たちの輝き

 お笑い芸人を志す人は、高知を含め全国にたくさんいる。売れたくてもがいている人、諦めて別の道に進んだ人、多くの人の心に「火花」はきっと染み入るだろう。

 芽が出ない若手漫才コンビ「スパークス」の徳永(菅田将暉(すだまさき))と山下(川谷修士)は熱海の花火大会に出演するのだが、祭りの喧騒(けんそう)で、まともに聴く客はいない。打ちのめされた彼らの後に舞台に上がったのは神谷(桐谷健太)と大林(三浦誠己)の「あほんだら」だった。神谷はあろうことか行き交う人々を指さし、怒鳴ってあおり始める--。

 不思議な魅力を持つ神谷と、彼に弟子入りした徳永の交流を軸に物語は進む。お笑いコンビ「ピース」のボケ役、又吉直樹が芥川賞を受賞した小説が原作。既にドラマ化されているが、映画版は芸人の板尾創路(いつじ)が監督した。

 人と人が触れ合う瞬間は、時にスパークする火花のように鮮烈に、あるいは詩情を込めて描かれる。特に徳永と神谷が初めて酒を飲んだ夜の場面や、公園で見知らぬ青年の太鼓に聴き入る場面、神谷の彼女である真樹(木村文乃)が登場する場面は切なく、美しい。

 日常の会話や行動の全てでいつも笑わせよう、面白くしてやろうとしている神谷にとって漫才は仕事ではなく生き方そのものだ。一方の徳永は、神谷に心酔しながらも、売れるための努力を続けている。「売れる」「人気が出る」には、大勢の人の多様な価値観を念頭に置いたネタ作りが必要になる(同調するにしても異質なものをぶつけるにしても)。奔放で直感的な神谷に憧れ、嫉妬しつつ、徳永は自分がどうあるべきかを思い、引き裂かれそうになるのだった。それぞれの人生の目指す方向と速度は変化し、やがてスパークスは最高の到達点に向かっていく。

 「漫才はな、1人では出来ひんねん。2人以上じゃないと出来ひんねん。でもな、俺は2人だけでも出来ひんと思ってるねん」と神谷は言う。優勝する漫才コンビは、競い合うライバルたちがいて面白くなれたはずだと。

 この社会は、勝者よりも敗者の方がはるかに多い。しかし、たとえ敗れたとしても、その人生には価値がある。火花が多くの共感を得ているのは、勝者ではない者たちの輝きを描いているからだろう。TOHOシネマズ高知で上映中。

 (天野弘幹)

関連記事

もっと見る

カテゴリー: 文化・芸能シネスポット文化


ページトップへ