2017.12.05 08:00

【嫡出否認の裁判】無戸籍の解消を急ぎたい

 明治時代にできた民法が抱える課題を改めて問う判決だ。
 子どもの父親でないことを法的に求める「嫡出否認」の手続きは民法で夫のみに認められている。これが男女同権を定めた憲法に反するかどうかが争われた裁判で神戸地裁は、合憲との判断を示した。
 民法には、結婚中の妻が妊娠した場合、法律上の父親は夫と推定する「嫡出推定」の規定がある。夫以外の男性との間の子であっても法律的には夫の子になる。
 今回の訴訟は、暴力を振るう夫から逃れた女性が、婚姻を解消できないまま別の男性との間に子どもをもうけた事例だ。
 男性の子としての出生届は受理されず、結果的に子も孫も無戸籍になった。子は法的に結婚できなかったり、孫も就学通知や健康診断の案内が届かなかったりしたという。
 解決手段は嫡出否認だが、原告の場合、夫の良心的な協力を得ることは困難といえるだろう。女性や子らは、妻や子も嫡出否認の手続きができるよう法改正されていれば「無戸籍は避けられた」と国に損害賠償を求めていた。
 これに対し神戸地裁は、規定は生まれた子の身分の安定や利益確保が目的で、合理性があるとした。
 夫の暴力が原因で婚姻関係が破綻するケースは多い。別居しても夫がストーカー行為に及ぶ例もある。新たな幸せを求めて別の男性と家庭を築く権利が奪われることがあってはならないはずである。
 古い規定では現代の課題に対処できなくなっていることは明らかだ。判決は、これらに正面から向き合ったとは言い難い。
 民法には他にも、離婚後300日以内に生まれた子は「前夫の子」とする規定がある。同様に無戸籍の子を生む要因になっている。
 法務省が把握している無戸籍者は全国に700人以上いる。今回の原告のように、夫の暴力から逃げ出した女性が別のパートナーと子どもをもうけた例が目立つという。専門家は実数はもっと多いとも指摘する。
 第一に考えなければならないのは自らに責任はないのに無戸籍になった人たちの救済だ。
 10年以上前には役所に相談しても冷たく追い返された例があったという。いまなお苦しい境遇にある人がいるはずだ。問題の解消へ、制度の抜本的な見直しを急ぎたい。
 判決は一方で、離婚訴訟での支援や個人情報を男性側に伝えないようにする仕組みなどの法整備を図るべきだと指摘した。
 これらも重要だが、無戸籍を生む背景といえる民法の改正論議なしには前進しまい。自治体の職権で戸籍を作る制度の構築も含め、国会に求められる役割は大きい。
 最高裁は嫡出推定の事例で、DNA鑑定で父子に血のつながりがないと判明しても法的な関係は取り消せないとする判断を2014年に示している。司法はもっと法の欠陥に踏み込むべきではないか。
カテゴリー: 社説


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