2016.05.16 07:20
奇跡の笑顔 全盲・重複障害を生きる(40)制度なくても何とかしたい
高知県立大の田中きよむ教授(社会保障論)は現場重視の研究者。福祉作業所の理事長もするし、夜中にはホームレスの人々に食事を配る。重症児デイ「いっぽ」(高知市朝倉南町)の運営母体、NPO法人「みらい予想図」(山崎理恵理事長)の理事にも入り、見守ってきた。
昨年6月、教授は連載第2部終了後の本紙で、「音十愛ちゃんが『社会の光』になった」と解説したが、「今度はお母さんが『光』になろうとしている」と話す。
「絶望の暗闇から解き放たれるため、周囲や地域から支えてもらって希望を遂げた。今度は同じような立場のお母さん方に共感し支援する側に回るんだと。娘のためにガムシャラに走ってきて消耗しているはずなのに、さらに次の段階へ。すごいです。わが子の成長、発達を支援するプロセスを通じて、お母さんも成長した。『障害が重くても、あきらめる必要はないんだよ』という彼女なりのメッセージなんでしょう」
それを米国の著名政治学者、ロバート・パットナムは「地域社会の互酬(ごしゅう)性」(または互恵性)という言葉で語っているという。
「互いに報いる。地域社会からもらったことを、今度は地域にお返しする。つまり、お互いさまの関係です。地域社会の持続には互酬性が大事。支援は、一方的では長続きしない。一方がずーっと我慢して支援して、他方は支援されるだけの関係ではね。双方向の関係がどれだけできるかで、地域社会の問題が解決され、豊かな地域社会が創り出されるんです」
山崎さんは、親子の私的世界から、社会的世界へ進んだというわけだ。ただ、貯金ゼロ、2千万円の借金。理事としてどう思ったのか。
「心配は正直なところ、ありました。でも、福祉活動とはそういうものなんです。制度がない。だけど、こんなに大変な人がいる。そこへ対して何とかしようとする活動が本来の姿。知恵を絞り、お金がなくてもパイオニア的に、まさに『最初の一歩』を踏み出したわけです。市民活動としての『ああして』『こうして』と要求する次元から抜け出し、『こういうことができるのでは』と実践を通して社会へ伝える。福祉を創り出していく側に回ったのです」と意味付けた。
地域福祉活動の中で「あの人はすごい」「ああいう活動は大事」と評価される取り組みは、石橋をたたいて渡るようなものではないとも言った。
「資金や制度が整った上でやるのは、悪い言い方をすればビジネスの側面もある。山崎さんの実践は福祉活動の原点なんです。多くの募金が寄せられているのは、山崎さんの活動にどんな形でもいいから協力して、みんなで実現したいという現れなんですよ」
となると、山崎さんは高知の福祉を担う人材のホープ?と尋ねると教授は首を横に振った。
「いや、『人財』です。宝のようなキーパーソン。どんな時でも笑みを絶やさない、あの光り輝く笑顔なら、きっと乗り越えてくれる。期待してます」と話し、自分の社会福祉学部の講義に山崎さんを講師として招き、授業までしてもらった。