2017.11.29 07:00

奇跡の笑顔 全盲・重複障害を生きる(36)「苦戦」の中の船出

場所決定の遅れ痛手
 10月18日。高知市朝倉南町の重症児デイサービス施設「いっぽ」はオープンから1カ月半がたっていた。代表の山崎理恵さん(50)は浮かぬ顔だった。事務所内の利用予定者を書き込んだ白板は土曜日以外、開店休業状態だったのだ。

 同日現在の利用実績と予約は、9月が16人(稼働率12%)、10月は32人(25%)、11月は61人(47%)。運営のアドバイザー、社会福祉法人「ふれ愛名古屋」の鈴木由夫理事長(66)から言われている目標は10月が60人、11月が90人で、「とても達成は無理」とため息だった。

 重症児デイ施設は大半が定員5人。採算ラインは1日の利用が平均3・5人という。月―土曜の運営だと「3・5人×26日」で月間91人だ。それほど難しい数字でないと思ったら大間違い。人工呼吸器、気管切開、胃ろう、経鼻チューブなどの装着があり、頻繁に痰(たん)吸引が必要だったり、けいれん発作もある。わずかの見落としが命の危機を招くだけに、母親は他人の手に委ねるのをためらって意外と施設を使わず、自宅の訪問サービスが中心の場合も多いのだ。

 あるいは、利用を始めても体調急変のドタキャンは多い。予約は満員でも、冬場は感染症で入院したり、キャンセルが続出したり。できれば、月間の予約は130人を確保しておきたいという。

 片や職員は児童発達支援管理責任者、看護師、機能訓練担当職、保育士4職種の全時間帯配置が必須。利用者1人の1日利用報酬2万円弱(自己負担は何度使っても月額上限4600~9300円)に対し、職員の人件費は毎日、最低でも5万円近く発生する。2千万円を借金してスタートした山崎さんは、事業経営の厳しさに直面していた。

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 9月1日から3日間の見学会は200人弱が訪れて大盛況だったが、4日の営業開始とともに「いっぽ」は静まり返った。

 利用第1号は9日。半月たっても合計3人。オープン前、山崎さんは「そりゃもう、喜んでもらえると思うんです」と声を弾ませていたが現実は厳しかった。

 その原因は、開設場所決定の遅れだった。4月下旬にNPO法人「みらい予想図」の登記を終えると、空き物件探しが始まった。緊急事態発生に備えて国立病院機構高知病院の近くが大前提。100平方メートル未満、駐車場5、6台付きで家賃20万円まで。50件回っても見つからず、1500万円で店舗跡を買い取ったのは7月25日。1千万円を超す募金が決断させた。ただ、購入したので思いっきり改修したため、改修費も予定の5、6倍、約700万円に膨らんだ。

 突貫工事で8月28日に完成。県庁担当課から事業許可が下りたのは31日午後。新学期にギリギリ間に合ったのだが、その結果、8月前半に内覧会→お試し利用→契約→9月1日オープンの計画はご破算となり契約者0での発進。このため、閑古鳥が鳴いていたのだ。

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 「重症児親子の笑顔と未来のために」と山崎さんが勇気を奮って立ち上げた「いっぽ」。高知新聞社は、にぎやかな出発までを伝えたが、その後の現実と、軌道に乗るまでを追った。 (編集委員・掛水雅彦)

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