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2017.02.14 08:05

大流通を追って 消えないカツオ(10) ビリッと最速の価値

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死後硬直するより前の「ビッた」食感のカツオ(四万十市中村天神橋)

 九州や東北からカツオをはるばる引き寄せる消費地であり、一本釣りカツオの産地でもある高知県の水揚げ地周辺で、特に好まれるカツオがある。“最速のカツオ”である。
 夕暮れの四万十市中心部。開店準備中の飲食店の前で「山崎鮮魚問屋」(同市中村桜町)の山崎敦嗣さん(57)が保冷トラックの荷台を開けた。

 冷気の中に並ぶ発泡スチロール箱。ネイリやサバ、アカハタ、一番手前には、ずらりとカツオ。上皿型の古風なはかりが1台。山崎さんが売り込む。

 「これがきょうのカツオね。中には“ビッた”のもありますよ」

 「ビッた」とは、死後硬直が起きる前のもっちりとした身の状態を指す。県内のカツオ産地の周辺では「ビリ」「ビリビリ」「グビ」などと呼ばれる。

 四万十市の居酒屋では「今日のカツオ、ビッちょう?(新鮮でもちもち?) なら刺し身でちょうだい」といった幡多弁のやりとりが聞こえてくる。

 近くの居酒屋の店主、岩瀬純一さん(40)は箱のカツオの横腹を軽く押したり、尻尾を持って軽く振ったりして、身のくにゃっとした、柔らかいカツオを選んでいる。

 店のメニューは「かつお刺し身」に、朱色で「ビリビリ」と書き添えてある。

 「もちもちで舌にくっつきます。包丁を入れても、ぬたあっと張り付く。だから薄めに切る。甘いっすよ」と岩瀬さん。

 山崎さんが「9時ぐらいには、もう身が締まって硬くなるもんね。それまでにお客さんに食べてもらって、喜んでもろうてよ」と笑う。

 ◆ 

 「僕らね、『朝取れ』じゃない、『晩取れ』がいいんです」

 山崎さんが重視する晩取れとは、夜に釣ったとの意味ではなく、「午後の遅い時間の競りで仕入れた」という意味だ。

 35キロほど離れた土佐清水市の魚市場。午前中のほか、県内の産地で最も遅い午後3時半に競りが行われる。

 正午を過ぎて沖で釣られ、ここで競られるカツオも多い。消費者の舌にのるまで、釣ってからわずか4、5時間ということ。

 山崎さんは、競り落としたカツオをあまり冷やさない。脇にちょこっと氷を置き、冷気を柔らかく送る程度で運ぶ。数時間後に食べる場合、氷を効かせすぎると身が早く締まってしまうという。

 魚のうま味は魚種やサイズに応じ、適度な熟成によって高まるとされる。だからビリビリは、水揚げ地の周辺ならではの特別な“価値観”だ。

 午後6時ごろ。居酒屋のカウンターに次々にお客が座った。

 松山市から出張中のサラリーマン2人組が、ビリガツオを一口。「こりゃすごい」と声を上げた。

 「普通の刺し身と全然違う。ここに来ないと食べられない。残してきた嫁には言えませんねえ」

 地元の女性も最初の刺し身をゆっくり口に運び、無言でうなずいた。「歯ごたえがあるのにトロっとしている。おいっしい」

 この日のカツオは1キロほどの小型で身は透き通ったピンク。競り落とされて2時間半。食感が“ビリッ”と主役を演じた。

高知のニュース カツオと海

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