2017.11.07 08:40

むすび塾×いのぐ塾 in 安芸 自分の命は自分で守る

 東日本大震災や熊本地震を経験した語り部と一緒に南海トラフ地震から命を守る対策を考える防災イベント「むすび塾×いのぐ塾」が10月28、29の両日、安芸市で開かれた。

 「自分の命を守るのは自分自身なんです」。大切な家族や知人を失った語り部たちはそう繰り返した。

 「犠牲者を出さない意識づくりにどう取り組めばいいか」。地元住民らは、迫り来る大地震に備える課題や悩みをぶつけ合った。

 避難訓練の様子や、語り部の講演、地元住民との語り合いで交わされた議論を特集で紹介する。

 全国各地で「むすび塾」を展開する東北のブロック紙・河北新報社と、防災プロジェクト「いのぐ」を進める高知新聞社、安芸市自主防災組織連絡協議会の共催。


雨の中で行われた夜間避難訓練。子どもたちが歩き慣れた避難路を率先して上っていった(安芸市伊尾木)
雨の中で行われた夜間避難訓練。子どもたちが歩き慣れた避難路を率先して上っていった(安芸市伊尾木)
懐中電灯頼りに避難 安芸市伊尾木の夜間訓練
台風が接近中 高台の保育所へ

 「むすび塾×いのぐ塾in安芸」の会場となった伊尾木地区では夜間避難訓練を2カ月に1度行っている。今回のイベントでもこの訓練を実施。地元住民約10人のほか、同地区以外の市民や語り部ら計約30人も参加した。

 目指すのは海抜19メートルの高台にある伊尾木保育所。市の指定避難場所になっている。普段は午後8時に各自が自宅を出るが、今回は近くの公民館を参加者全員で出発。住宅地の後背地に東日本大震災の後、整備したという避難路を上った。

 台風22号が接近中で時折強い雨が降る中での訓練となった。避難路の階段には街灯2カ所と小さな誘導灯が取り付けられているが、ほぼ真っ暗。そんな中、子どもを含む地元の人たちは、懐中電灯の明かりを頼りに慣れた足取りで階段を上っていった。

 途中、避難場所の保育所より海抜が高い高台(海抜27メートル)で一行は立ち止まった。毎回の行動だという。その訳について地元防災の中心人物の一人、安岡豊さん(54)が説明した。「海の様子を見定めた上で保育所へ向かう必要がある」

 夜間避難訓練は伊尾木小学校PTAが地域に呼び掛け2011年7月から行っている。避難した合図として玄関にタオルを結ぶルールも作っている。

 同地区は海に近く、海抜10メートル以下の土地がほとんど。南海トラフ地震では5~10メートルの津波浸水が想定されている。また、住宅地の東の山腹にある農業用ため池「竜王池」の堤が決壊する恐れも指摘されている。避難の途中で高台で止まった時、この池にも警戒するのだという。


語り部による講演に安芸市民ら約120人が耳を傾けた(安芸市矢ノ丸1丁目)
語り部による講演に安芸市民ら約120人が耳を傾けた(安芸市矢ノ丸1丁目)
継続の大切さ痛感 訓練振り返り

 安芸市の自主防災組織の関係者や伊尾木地区の住民に語り部らを加えた15人による「語り合い」は、まず前夜に同地区で行った津波避難訓練を振り返った。

 ここで多くの感心の声が出た。雨の中、子どもが率先して階段を駆け上っていった光景に、海から約2キロ離れた西ノ島地区の自主防災会副会長、山口隆朗さんは「子ども一人でも避難できるのは心強い」。

 伊尾木地区では2カ月に1回のペースで夜間避難訓練を行っており、今回が38回目。安芸市自主防災組織連絡協議会女性部会長の仙頭ゆかりさんは「普段からできることを積み重ねていくと、いざというときに体が動く」と納得していた。

 他地区の参加者から驚きや感心の声が上がる中、夜間訓練をけん引する人物の一人、伊尾木小PTA会長で安芸市自主防災組織連絡協議会会長の安岡豊さんは「いろんな所の取り組みを聞いて、参考にしながらまねればいいんです」。この訓練も高岡郡四万十町興津地区の取り組みを参考に始めたといい、「何とか子どもたちの命を守りたいとの思いからだった」と振り返った。

 初めて訓練に参加した安芸桜ケ丘高2年の畠山沙姫さんは「お年寄りや知り合いがたくさん参加していて驚いた。これからは友達も誘って一緒に意識を高められたらいいと思う」と話した。

 東北大学の佐藤翔輔准教授は「夜間でも子どもが怖がらずに行動できているのは、体と心で(避難行動を)覚えているから」だと説明。地元住民から夏場はマムシへの対処も必要と聞いた話を紹介し、「季節が変わる中で、新しい発見ができる。良い訓練だ」。

 東日本大震災の語り部、志野ほのかさんは「避難訓練は昼にやるのが当たり前だと思っていたので衝撃的でした」。元田久美子さんも「訓練は年1回だと学べたことを忘れやすい」として、高い頻度で繰り返すことが重要だと訴えた。


安芸市の自主防災組織のメンバーら住民8人を含む15人で、命を守る防災対策について議論した「語り合い」(安芸市西浜)
安芸市の自主防災組織のメンバーら住民8人を含む15人で、命を守る防災対策について議論した「語り合い」(安芸市西浜)
揺れへの備え 住民のつながり生かす

 地震の揺れに対しても議論が深まった。

 安芸市の消防署員でもある山崎均さんは「家が揺れに耐えられないと、その後の活動ができない」と、改めて家の耐震性の重要性を指摘。ただ、耐震化の入り口とも言える耐震診断を受けない人が多いという。その理由を「家が物でいっぱいなので入られるのが嫌」と言う人が多い、と悩ましげに話した。

 熊本地震の揺れを経験した山岡縁さんは「4~5分ほど強い揺れが続き、死を覚悟したほどだった」。巨大地震の揺れのすさまじさを強調した。

 倒れた家屋からの救助についても話題になった。山岡さんは、熊本県西原村の大切畑地区で消防団がチェーンソーを使い家の下敷きになった住民を次々と救出した事例を紹介。その背景を「消防団は住民が家のどこで寝ているかを知っていた」とし、住民同士の密接なつながりが迅速な救助に生かされたと話した。

 安芸市でも地域のつながりを構築する取り組みがあることを、井ノ口地区で活動する一ノ宮自主防災会会長、川上信さんが披露。同地区は内陸部で津波浸水は想定されていないが、隣近所の5世帯ほどで安否確認を行う「隣組」を編成しているという。課題は「家の下敷きになった人をどうやって助けるか」だと述べた。

 この声に対しNPO高知市民会議理事の山崎水紀夫さんは、沿岸地域から避難してくる住民が内陸部に押し寄せることが想定されると説明。「逃げ込んできた人たちに支援者になってもらい、下敷きになった人たちの救出に手を貸してもらうやり方もある」。津波被災者自身も、避難先で何ができるかを考える意識づくりが必要とした。

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カテゴリー: 社会いのぐ災害・防災安芸


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