2017.11.04 08:00

【南海トラフ情報】曖昧さにどう向き合うか

 南海トラフで巨大地震につながりかねない異変が生じたら、速やかに「情報」を発表して警戒を呼び掛ける―。5日の「世界津波の日」を前に、気象庁の新しい地震防災制度が始まった。
 これまでは発生を数日前に予知できることを前提に、東海エリアに限って強固な防災体制が構築されてきた。前兆現象を捉えると首相が警戒宣言を出し、交通などを一時停止する強い規制も可能だった。
 政府は今回、予知という位置付けを事実上外した。対象範囲も、四国を含む南海トラフ巨大地震の想定域全域に広げた。地震防災の方向性を大きく転換したといってよい。
 中央防災会議の有識者会議が、いまの科学では地震発生の「高い確度の予測はできない」と結論付けたからだ。報告書で予知ありきの制度の見直しも提言していた。
 新たな制度では、マグニチュード(M)7以上の地震やプレート境界のひずみ計に大きな変化が生じた場合などに、有識者でつくる検討会が招集される。
 まず検討会の開催を伝える「南海トラフ地震に関連する情報」の臨時情報を発表。分析の結果によっては「発生の可能性が相対的に高まっている」などの続報を出す。
 発表される情報に精度の問題があるにしても、防災上、事前情報のあるなしの差は大きい。特に巨大地震に繰り返し見舞われてきた本県は、次も黒潮町の30メートル超をはじめ、各地に大津波が押し寄せる恐れがある。情報の早期発表と対象エリアの拡大は意義がある。
 問題は、情報の不確実性や曖昧さにどう向き合うかだろう。
 情報が発表されても巨大地震に至らない場合もあり得る。続報が出るのは早くて2時間後だが、間に合わないケースもあるだろう。
 空振りを恐れていては命を守る情報発信や避難指示はできないが、避難の長期化や空振りの連続は好ましいことではない。経済への影響や警戒心の低下を招きかねないからだ。
 予知ではないため、政府は即時の避難は呼び掛けない方針という。情報の内容によっては自治体や企業、住民らが難しい対応を余儀なくされそうだ。
 自治体や企業などは、情報が発表された場合の対応をあらかじめ検討しておくことが欠かせない。混乱しないように政府も情報の解釈や対応について、一定の指針を示す必要があろう。
 ひずみ計などの観測を生かす制度なら、東海に比べて遅れている紀伊半島や四国側の観測網も強化すべきである。
 地震はこうした防災制度を整えていても前触れなく発生する場合がある。想定外の現象も起きる。行政の情報や指示が役立たず、自主的な判断や行動が求められることもあるだろう。東日本大震災の教訓だ。
 訓練や家庭での備えの積み重ねが防災力を高める基本であることを、私たちは忘れてはなるまい。
カテゴリー: 社説


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