2017.02.14 08:35
大流通を追って 消えないカツオ(4)高知向け競りバトル
一方で、漁師はここ20年以上、漁獲減を嘆く。新聞には近年「不漁」「危機」といった見出しが並ぶ。
それでも、県内の量販店には今日もカツオが並んでいる。
海上の生産者の感覚とは裏腹に、高知県民にとってカツオは、むしろ“消えない魚”ではないのか。
不漁なのに、なぜ消えないのか。消費地・高知を中心に陸のカツオを追った。
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うまいカツオが長崎からくる。
そう聞いて西日本最大の産地市場「長崎魚市場」を訪れたのは8月初旬の未明。
各種ハタ類、ヒラマサ、メダイ、クロムツ、イシダイ、ハモ、ヤガラ…。水揚げされたアジは太いベルトコンベヤーをなだれのように滑り、おびただしい数の人が仕分けする。
沖合には五島列島、遠く対岸には韓国。黒潮の分流と、南下する冷水が複雑な海底地形で混ざる漁場は多様な魚を育む。「ここは水族館より面白い…」とつぶやいたほど、岸壁を埋める魚は色も形も大小もさまざまだった。
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「なんて!? 1匹入りのカツオが何個? はいはいはい!」
カツオの競りが始まる直前の6時すぎ、長崎市の仲卸業者「ヤマス」の岩永大作さん(50)は携帯電話を耳に押し付けて叫んだ。電話の相手はどうやら高知市の卸商「大熊水産」のようだ。
今から競るカツオは宮崎船が水揚げした約5トン。3、4キロサイズが約1500匹。
岩永さんたちは慌ただしい。高知の卸売業者など10社前後と同時進行で電話を交わし、全国の主要市場の入荷状況も分析し、長崎の見込み相場を相手に伝え、「仮に1キロ700円なら50匹欲しい。800円なら…」というように必要量を聞き取る。
南から、台風が迫っていた。
「では!」。競り人は当面5日間ほど水揚げがないとの見通しを伝え、大声を発した。さあ始まりだ。
「2500円(にーごー)!」「3千円!」。1匹入りと2匹入りの箱の山を囲み、岩永さんたちが買値を叫ぶ。各地へ売るカツオを巡って、緊迫の攻防だ。
その脇で、ヤマスの渡辺英行社長(57)がスマートフォンの画面を見せてくれた。通信社の情報サービスで「気仙沼182トン」とある。
「東の水揚げが結構ある。今日のカツオは高知に行くはずだよ」
渡辺社長の頭にある長崎カツオの流通イメージはこうだ。
東(宮城・気仙沼)の水揚げが少ないと東京が相場を引き上げ、長崎のカツオも引っ張られる。
大阪、京都は安値の時に引きがある。高いときは欲しがらない。
遠州(静岡と浜松)は長崎のカツオの味を特に好む。
高知。送る量が圧倒的に一番多い。水揚げが多いときは6割が高知へ。「NHKの『龍馬伝』の年は、出荷量が増えたんだよ」
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ヤマース!
カネハール!
フクスーイ!
白熱の競りは約10分。競り人が次々に屋号を叫ぶ仲買業者は、いずれも高知と取引がある。この3社が張り合って全量の3分の2以上を押さえ、そのほとんどが高知へ陸送されることになった。
出荷作業のめどが付いた午前10時、表情の和らいだ岩永さんと市場の食堂に入った。
身質を確認するために岩永さんが割って持ち込んだカツオの刺し身をつつきながら、唐揚げ定食を食べる。刺し身は脂と赤身のバランスが絶妙で、もっちりとした食感だ。
ふぅ、っと息を吐いた岩永さん。
「台風明け、高知はよさこいでしょ? またバトルですわ」
競り人の次の入荷見通しは8月9日ごろ。台風で品薄になる上、毎年、観光客が高知市に流れ込む日だ。高知から注文が殺到するぞ、闘いだぁ、と言いたげな表情だ。