2017.10.21 08:30

【地震新聞】津波時 庁舎機能守れ 沿岸10市町 取り組み本格化

 南海トラフ地震で市役所や町村役場の津波被害が想定される高知県内の自治体で、庁舎の高台移転や災害時に代替施設となる拠点を建設する動きが広がっている。

 県内の沿岸19市町村のうち10市町の庁舎が津波浸水想定区域内にある。このうち幡多郡黒潮町は既に新庁舎を建設中で、11月に海抜26メートルの高台に完成する。高岡郡中土佐町も2020年度の移転に向け用地を造成しており、安芸市は候補地選定を進めている。

 東日本大震災では、宮城県南三陸町などで庁舎が津波被害に遭い、業務に支障を来したこともあり、役場機能を保全する重要性が指摘されている。ただ庁舎移転には多額の予算が必要なため、部分的な機能保全に取り組んでいるところもある。

 安芸郡奈半利町は役場から約700メートル離れた高台に、基幹データのサーバーを備えた防災拠点施設を建設中。東洋町も役場敷地内に防災拠点施設を建設しており、いずれも大規模災害時は「第2庁舎」の役割を担う。

 このほか、高知市は想定される最大津波浸水深(50センチ)を考慮し、1階床面を70センチ高くする対策をとり、宿毛市は庁舎建て替えの検討に着手している。

 室戸市や土佐清水市は2階以上の浸水が想定されないことや財政事情を踏まえ、移転などの方針はないという。安芸郡田野町は防災無線などを役場3階に移しており、現庁舎での機能保全に努める。

防災、利便性 両立には苦慮  最小移転で第2拠点化も
 南海トラフ地震の津波被害に備え、高知県内で進み始めた自治体庁舎機能を守るための対策。ただ、庁舎の立地場所について利便性を求める住民の声があるほか、自治体の財政事情も絡み、すんなり方向性が決まらないケースもある。 

  ▼400メートル移動へ
 中土佐町の国道56号沿い、久礼中学校の東側で用地造成工事が進んでいる。2020年度末、ここに同町役場の新庁舎が完成する予定だ。現在の津波浸水想定区域内から、海抜22メートルへの移転となる。

 町が新庁舎の整備へと動き始めたのは10年。当時は海から約300メートルの所にある現庁舎付近に移転改築する予定だったが、東日本大震災の後、一帯の津波浸水想定が13メートルと出されたため、12年4月から専門家らを交えた「庁舎等建設調査審議委員会」で議論を重ねた。

 高台に移転する方向性は当初からあったが、移転が確定するまでには移転の是非を問う住民投票条例が制定されながら廃案となるなど混迷した。現在の庁舎がある町中心部の住民が避難できる場所として現在地で建て替えるべきだとの提案や、日常の利便性が失われるとの意見があったためだ。

 町は10カ所以上の候補地を提案したが、いずれも「防災」と「利便性」を両立できておらず、当時の担当職員だった企画課の木村玲雄さんは「審議委員の反応はいまひとつだった」と振り返る。

 結局、現在の庁舎から約400メートル離れた高台への移転整備が決まったのは14年だった。

最大浸水深が6.5メートルと想定される安芸市役所=中央。市は移転方針を示したが、市中心部から離れることを懸念する市民も多い(安芸市矢ノ丸1丁目)
最大浸水深が6.5メートルと想定される安芸市役所=中央。市は移転方針を示したが、市中心部から離れることを懸念する市民も多い(安芸市矢ノ丸1丁目)
 安芸市が庁舎移転の方針を打ち出したのは今年3月。現在、候補地の選定を急いでいる段階だが、中土佐町と同様の難しい判断に迫られる気配がある。

 同市は現在の庁舎がある市中心部から北部にかけて浸水エリアが広がる。浸水を逃れる高台に移転するとなれば、中心部から離れなければならないため、住民の中には「市役所を中心に暮らしやすい街をつくり上げてきた。移転は市の衰退につながる」との声も根強い。

奈半利町では「第2庁舎」の機能を持たせる防災拠点整備が進む(奈半利町乙)
奈半利町では「第2庁舎」の機能を持たせる防災拠点整備が進む(奈半利町乙)
  ▼優先順位
 海岸から約600メートル離れた海抜4メートルの町中心部にある安芸郡奈半利町役場。南海トラフ地震の際には地盤沈下と津波により長期浸水の恐れがあり、役場の機能は失われる可能性が高い。

 そんな中、同町が選択した対策は、移転ではなく新たな防災拠点の整備だ。

 東日本大震災以降、町は限られた予算の中で、「まずは住民が避難できる場所の整備」(高橋勝副町長)を優先。避難タワー6基を建て、避難路を整備し認定こども園の高台移転に取り組んだ。

 これと併せ現在、町役場から700メートルほど離れた宮ノ岡地区の高台(30メートル)に鉄筋コンクリート2階建ての防災拠点施設を建設している。周辺にはヘリポートなども設け、いざというときの「第2庁舎」として活用する予定だ。

 同町は既に住民基本台帳や税などの基幹データをクラウド化しており、拠点施設に基幹ネットワーク設備など“町の心臓部”を移設し、現庁舎と専用線で結ぶ。

 庁舎移転なら十数億円かかるとされるところ、防災拠点施設の総事業費は約3億円だった。高橋副町長は「防災対策に終わりはないが、優先順位を付けて住民に示し、理解を得て進めるのが大事だ」と話している。


「庁舎問題はまちの将来像から考える必要がある」と話す原忠教授
「庁舎問題はまちの将来像から考える必要がある」と話す原忠教授
《原忠・高知大教授》 まず、まちの将来像考えて
 自治体庁舎の機能はどうあるべきなのか。高岡郡中土佐町や安芸市の庁舎建設問題の検討委員会で議論に加わった原忠・高知大学教授(同大防災推進センター副センター長)に聞いた。
      ◇
 東日本大震災や熊本地震では、自治体庁舎が果たす機能がいかに大事かということを教えられた。

 熊本地震が起きた直後に私は熊本県宇土市に入った。庁舎が損壊し書類や基本データがないところへ被災者が訪れ、職員は右往左往していた。まさに動乱状態だった。

 東日本大震災では海側の庁舎がほぼ浸水し機能不全になった。庁舎が機能しないと職員も機能せず、そうなると復興も遅れる。

 これまでは一般的に、自治体の庁舎は「にぎわいの中心」などと言われてきたが、人の行き来なら今は文化ホールや図書館の方が多い。にぎわいはまちづくりの中で生まれるもので、庁舎があるからではない。

 私たちの生活で重視するものは何をおいても人命だ。庁舎をどこに建てるか、移転の必要性はといった検討は、当座の生活を基に考えるのではなく、まちの将来像を考えるところから始まる。たとえ被災しても、迅速に復旧してまちを取り戻せるかが鍵だ。復興が遅れれば人口はどんどん流出する。

 中土佐町や安芸市は予想される浸水深が極めて高く、庁舎機能の復旧を期待できない。一方で、最悪の想定で数十センチの被害で済む場所は、違う対策も可能だ。今のリスクを正確にとらえて、まちの姿をどうしていくかを冷静に考えることが大事だ。


被災体験を聞く会 安芸市で28日
 高知新聞社は東北のブロック紙、河北新報社(本社、宮城県仙台市)などと共催で10月28、29日、安芸市で防災行事「むすび塾×いのぐ塾in安芸」を開催。そのプログラムの一つ、28日の「被災体験を聞く会」の参加者を募集しています。参加無料。

 会では東日本大震災の語り部3人と、熊本地震に遭った安芸市出身の女性が当時の体験や思いを伝えます。同市矢ノ丸1丁目の県安芸総合庁舎で、午後2時半開場、3時から5時まで。

 定員150人。申し込みは高知新聞社メディア企画部まで電話(088・825・4880=平日午前9時半~午後5時半)かメール(mediakikaku@kochinews.co.jp)で。メールの場合は氏名、住所、電話番号(複数参加の場合、全員の氏名)を明記してください。


◆備防録◆ まちの顔
 東日本大震災の大津波にのみ込まれ、骨組みだけになった宮城県南三陸町の庁舎。災害時に頼りとすべき施設の惨状は、発生から6年半が過ぎた今も脳裏に焼き付いたままだ。

 私の住む安芸市でも、市庁舎の移転論議が続いている。市民の間では「被害の大きさを考えたら移転すべきだ」「今までのまちづくりの投資を無駄にするのか」と賛否の声が分かれる。

 高台移転にこぎつけた中土佐町の職員は「まちの顔が変わる。まず町民に理解してもらうことが難しかった」と振り返る。高齢者も増える現状では、今の利便性に配慮する必要も理解できる。

 ただ、庁舎建設は半世紀に1度の大事業。南海トラフ地震の発生確率が高まる中、無視はできない。まちの顔をどう位置付けるのか、各市町村の決断が求められている。


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