2016.01.23 14:00

【施政方針演説】選挙向けの自画自賛では

 2016年度予算案がきのう国会に提出されたのに合わせて、安倍首相が施政方針演説を行った。

 演説は安倍内閣では最も字数が多かったという。にもかかわらず空疎に響いたのは、政権の実績を強調する自画自賛と情緒的な美辞麗句が目立ったからだろう。

 キーワードとして掲げたのは「挑戦」だ。日本が直面する多くの課題に前向きに挑む、という意味では異論はないが、具体論に入ると首をかしげざるを得なくなる。

 環太平洋連携協定(TPP)の大筋合意をめぐっては、農産物の輸出拡大のチャンスと強調。さらに、農林水産業の付加価値の向上や国際競争力の強化に取り組むとした。

 だが、先に成立した15年度補正予算のTPP対策は公共事業の側面が強い土地改良などが柱だ。対策大綱に盛り込まれた具体策も保護策による影響緩和の色が濃い。

 農林水産業では就業者の減少と高齢化が一段と進んでいる。疲弊し、先行きへの不安を強める農山漁村の人たちに、一部の成功例を示して明るさを強調する首相の訴えが響くだろうか。

 間もなく発生から5年となる東日本大震災の被災地についても、実績の列挙が中心だ。だが、いまなお避難を続ける人たちをはじめ、多くの被災者が復興を実感できず、原発事故の後始末も遅々として進んでいないのが現状といってよい。

 政権の新看板の「1億総活躍」では、選挙公約さながらに多くの政策を並べた。出生率の向上策にはこんな文言もある。「所得の低い若者たちに、新婚生活への経済的支援を行います」

 どんな支援策を考えているかは不明だが、若者たちが結婚、出産をためらう背景には雇用の不安定さや所得の少なさがある。一時的な経済的支援で解消できる問題ではない。

 首相は格差是正を打ち出してはいる。中でも、正社員と非正規労働者の賃金格差を是正する「同一労働同一賃金」の実現に強い意欲を示したが、財界などの厚い壁を取り除くのは容易ではない。

 実績の強調と政策の羅列が目立った演説は、夏の参院選をにらんでいるからだろう。聞き心地のよい政策も、どう具体化していくのか道筋が見えなければ絵に描いた餅だ。

 その参院選で首相が争点化するとしている憲法改正に関し、演説では国会の議論について「責任を果たそう」と呼び掛けた。「国のかたちを決める憲法改正」とも述べたが、どんな「かたち」を考えているのかははっきりしない。

 首相の施政方針など政府4演説のうち、甘利経済再生担当相の経済演説時には野党議員が退席した。金銭授受疑惑に関する説明が不十分との理由からだが、異例の事態というほかない。

 演説を受けた各党代表質問は26日から始まる。甘利氏の問題を含め、徹底した論戦を通じて参院選の争点を明確にしてもらいたい。
カテゴリー: 社説


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