2017.09.26 08:20

【衆院選】論議なき「忖度解散」 高知新聞社報道部長・浜田成和

 酉年(とりどし)の政局は動く―。年明けにそう予言していた安倍晋三首相が25日、衆院解散に踏み切る方針を表明した。だが、この解散には任期を1年以上残してまで「伝家の宝刀」を抜く大義はなく、安倍1強が極まった「忖度(そんたく)解散」と断じざるを得ない。

 安倍首相は今年の年頭会見で「酉年はしばしば政治の大きな転換点となってきた」と切り出し、1945年の終戦まで酉年の出来事を振り返ってみせた。その中で真っ先に挙げたのは、2005年の「郵政解散」だった。

 郵政民営化関連法案が参院で否決されて窮地に追い込まれた小泉純一郎首相は、周囲の反対を一顧だにせず衆院を解散した。身内の造反者に小池百合子氏(現東京都知事)らを刺客として次々と立てた「小泉劇場」は、まだ記憶に新しい。

 「参院否決→衆院解散」という奇手に、当時も今回と同じく「首相の解散権」を巡って議論があった。「参院の独自性を無視することになる。解散権は無制限ではなく、限定されたものだ」。そんな見解を示す憲法学者もいたが、その声が大きくならなかったのは、小泉首相が国民に問いたい郵政民営化という明確な「信」があったからだろう。

 それに比べて今回はどうか。

 解散風が強まっても一向に大義は見えてこず、安倍首相が記者会見で説明するまで、与党幹部は首相の胸中を忖度するような言動に終始していた。そもそも「消費税収の使途変更」が自民党内でどれだけ論議されてきたのか。解散の大義まで後付けで添えるような状況は、異様な「忖度政治」というほかない。

 憲法には衆院解散についての条文が二つある。内閣不信任決議に対抗する69条と、天皇の国事行為として国会の召集や衆院の解散を記した7条だ。

 後者の国事行為はいずれも「内閣の助言と承認による」とされ、これが戦後長く「解散は首相の専権事項」と解されている理由になってきた。しかし、信すら明瞭でない今解散には「今までのどの解散より恣意(しい)的な解散」との批判があり、諸外国のように首相の解散権を制約する仕組みを求める声も各方面から出ている。

 郵政解散以降の4回の衆院選は、勝ち負けの振れ幅が極端に大きく、ほぼ半数の有権者が望んでいる「与野党伯仲」とはほど遠い。

 憲法改正日程がこれまで以上に現実味を帯びだし、安全保障環境が激変する中で行われる酉年決戦。大義は見えづらくても、私たち有権者が考えなければならない課題は山積している。向こう1カ月近い選挙戦を、緊張感のある政治を取り戻す転換点としなければならない。


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