2017.09.21 08:30

【地震新聞】減災ケアへ“対話者”育成を 高知県大・神原准教授が考案

城西中での学習会。神原咲子准教授=左=は幼い子の母親として、災害時の困り事を生徒たちに訴えた
城西中での学習会。神原咲子准教授=左=は幼い子の母親として、災害時の困り事を生徒たちに訴えた
 「減災ケアコミュニケーター」。高知県立大学で生まれつつある言葉だ。災害時に人々を守るために必要な水、食料、生活環境、健康についての面倒を見ることができるようコミュニケーションを取る人のことで、考案者は20日まで本紙朝刊で連載した「共助の地図」で、日常の対話の大切さを訴えた神原咲子・大学院准教授(40)=災害看護学。この「新しい役割を担う人」の重要性について神原准教授に話を聞いた。

 「子どもが泣いて、周りからうるさいって言われて」「今から食事が配られるみたいなんだけど、並んでる間、うちの子、見ててくれません?」

 8月29日、高知市大膳町の城西中学校の生徒会と県大大学院生らが同校で開いた避難所運営の学習会。神原准教授も3歳の長女と参加し、「幼い子と避難してきた母親」役を演じた。

 海外からの大学院生や高知市に暮らす障害者らも参加。生徒たち14人は「当事者」との対話を重ねた。冒頭の神原准教授の言葉には「私たちと外で一緒に遊びましょうか」「僕が見てます」。

 こうした経験が重要だと、神原准教授は訴える。

 ■地域にバリアー
 次のようなバリアーがある。
 知的障害があって意思疎通が難しい。外国人で使用言語が異なるため分かり合えない。災害時に懸念される状況だが、コミュニケーションの問題はそれだけではない。

 核家族化。地域のつながりの希薄化。それらが同時進行する都市部では「他者を知る機会」は減少の一途だ。

 そんな風潮が避難所運営を困難にする。神原准教授はいう。

 「同じ地域に暮らす人が、その特徴を互いに知らない。しかも多様な人たちが一度に避難所に集まる。日頃から地域住民がよく集まっていて人間関係がある、というベースで避難所が動くんじゃなくて、ないところからのスタートなんです」

 「例えば支援物資を配る時。ちゃんと話し合えれば、(配給が後回しになるとしても)『ああ、そういうことだったらお先にどうぞ』と言える」「コミュニケーションで、癒やされるということもある」

 なのに「日頃のコミュニケーションがないと災害時、声を掛けようにも掛けられない」。

 そんな現代社会だからこそ、バリアーを超えて人々とつながる、人々をつなげる必要があるのだという。現在の研究テーマの一つであり、それが減災ケアコミュニケーターの役割だ。

 この考え方は海外の災害現場での経験が基となったという。

 「地方に行けば行くほど、そこにいる看護師さんは、その土地で生まれ育ち、文化も知っていて、かつ住民であり被災者であるかもしれないという人だった。しかも医療のことが分かって、人々の健康に関心がある人」

 同じバックグラウンドがあるからこそ理解できる。しかも職業的に医療関係者らと対話できる。被災地に外部からやってくる支援者にも、地元の人々の困り事や地域の特性も伝えられる。そんな人たちがいた。

 ■中学生も第一歩
 その意味で、障害者は障害者の理解者であり、代弁者になれる。他の要支援者となりうる人々、高齢者や幼い子を連れた母親も同様だ。また、そういった人々と日頃から話している市民も。

 つまり、「専門職ではないけれど、人々とコミュニケートできる人」が減災ケアコミュニケーターなのだという。

 その一歩を踏み出したのが城西中の生徒たちだ。学習会の様子を神原准教授が説明する。

 「初めは、模範解答以外の言葉に『おっと、そんな言葉が出てきたか』という感じで固まって、次の言葉が出てきませんでしたよね。それが、学習会を通し『答えは一つじゃない』と分かったんじゃないでしょうか。いろんな答えを返すようになり、最後は『自分たちだからこそ、できることがある』って言うようになった」

 日々、対話することが、非常時の備えとなる。

障害者もできる 弱者支援センターの開設目指す杉野さん
 高知市朝倉己で障害者が働く菓子工房を運営しながら、工房内に「県災害弱者支援センター」の準備室を設置し、2019年3月の開設を目指している杉野修さん(59)。神原准教授らと減災ケアコミュニケーターについて協議し、8月の城西中での学習会にも車いすの知人2人と参加していた。

 学習会の途中、思わず声が出た。「今日の神原さんたちのような役割を障害者がやらねば。弱者、要配慮者と言われることが多い人たちだが、次世代の子どもたちに『災害時の障害者支援』について語る、教えることはできる」

 菓子工房を始めて気付いた。障害者にもいろんな仕事ができる、能力は高い、と。それまでの自分は、今の社会は、障害者を「能力のない人」と決めつけ、何もさせてこなかったのではないか、と。

 減災ケアコミュニケーターの“資格”化―今、杉野さんが描いている構想だ。

 「防災士、となると知的障害者はハードルが高いかもしれないが、減災ケアコミュニケーターはできる。この“資格”を取った障害者たちで今日のような学習会を企画し、運営する。そうした人材育成や事務作業が(平時の)支援センターの仕事になる」

 そんな話を神原准教授としている。

◆備防録◆ 「お互いさま」の心
 どんな支援が必要ですか。その質問に答えてくれた聴覚障害のある人の言葉にはっとした。

 「支援は欲しいけど、助けられるだけのお客さんになりたくない。私たちも誰かを助けたい」

 生活環境や性格をはじめ、できることは人それぞれ。障害もそんな一側面でしかない。当たり前のことを忘れていた。「障害者」は一方的に「助けられる側」という偏見が、彼ら、彼女らの声を無視し、「障害」を生む種になっていたのかもしれない。

 助けてほしい人も助けたい人も、他人に声を掛けづらい空気が漂う時代。でも、誰もが弱さと共に、生きる力や誰かを支える力を持っている。

 「何かできることはありますか?」。まずは一言、声を掛ける勇気を持ちたい。

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