2016.02.11 14:45

政治的中立とは(上) 「政党批判いかがなものか」

記念事業の講演会が開かれた高知市立自由民権記念館。正面に「自由は土佐の山間より」の碑が立つ(高知市桟橋通4丁目)
記念事業の講演会が開かれた高知市立自由民権記念館。正面に「自由は土佐の山間より」の碑が立つ(高知市桟橋通4丁目)
2015年夏、高知市課長が講演中止要請 弁護士は抗議…  高知市は毎夏、「平和の日」記念事業に取り組んでいる。日本敗戦の8月15日に向け、高知空襲展や映画会などを開く試みだ。

 2015年8月15日には、その一環として東京の飯田美弥子弁護士(55)による講演会を開いた。会場は高知市立自由民権記念館1階ホール。パイプいすを急ぎ追加し、150人の聴衆で満席になった。

 飯田弁護士は落語で憲法を語ることで知られ、この日も自民党の改憲草案をネタに笑いを誘った。

 「中立」や「偏向」をめぐって舞台裏でさざ波が立ったのは、その2カ月前だった。高知市が講師を依頼し、日程も確定済みだった講演を突然、高知市が自ら「キャンセル」しようとしたのだという。

【写真】記念事業の講演会が開かれた高知市立自由民権記念館。正面に「自由は土佐の山間より」の碑が立つ(高知市桟橋通4丁目)

      ■  ■

 飯田弁護士に「中止を」と求めたのは、事業を所管する高知市総務課の永野哲也課長(50)だった。

 「レジュメに特定の政党を批判するような文言があって、高知市の事業としてふさわしくないのではないか、と」

 そう思ったと振り返った。

 この1月下旬、高知城近くの高知電気ビル第2別館。高知市庁舎建て替えの間、総務課などはここで業務を続けている。

 永野氏の説明によると、2015年6月9日、飯田弁護士の事務所から届いたメールが発端だった。講演内容をまとめたレジュメ4枚。憲法の歴史を語った後、自民党の改憲草案を解説していく流れだ。

 レジュメに記された「自民党改憲案の意地汚さ」「自民党が望む改憲を阻止するために」など3カ所の記述を永野氏は問題視し、その日のうちに弁護士事務所に電話した。

 「疑問に思ったことを問い合わせてみよう、と。政党を批判されてますけど、いかがでしょうか、と」

 電話に出た女性事務員は「レジュメ変更も可能ですし、キャンセルでも構いません」と話したという。

 その答えに永野氏は「引っ掛かっちゅうことが全部無いなる(解決する)」と考え、翌日、事務所に電話でキャンセルを伝えた。その際、上司の了解も得たという。

      ■  ■

 内容の変更やレジュメの一部削除は求めなかったのだろうか。

 取材を始めて1時間がすぎたころ、永野氏はこう言った。

 「偏りすぎた内容になってないでしょうか、と聞いたと思います…それぞれの意見を尊重せないかんと思ってますので、片側からの意見だけというのはいかがなものか、と。レジュメは自民党批判だけの内容。偏っていると感じました」

 永野氏の手元には、当時の資料をとじた緑のファイルがある。

 「がいに言うたつもりもないし、圧力をかけたつもりもありません。ただ、レジュメは会場で配るものです。文字になると独り歩きします。高知市の事業、高知市の意向で、特定の政党を批判した文書を配った、と言われかねませんから」

 講演は結局、飯田弁護士が「キャンセル」に抗議したことで予定通り開かれた。

 当時、国会は安全保障関連法案の審議中で、憲法学者から「違憲」との指摘が相次いでいた。飯田弁護士は「時期的に行政が敏感になっていたのかもしれませんね」と、高知市側の対応をおもんぱかる。

 永野氏によると、高知市には「偏向」を理由に講演などを規制する規則は存在しない。

      *  *

 「政治的中立」「偏向」とは何か。この言葉はいま、どんな力を持ち始めているのか。日常から見える姿を高知県内で追い掛けた。

【関連条文】

現行日本国憲法 自民党改憲草案
 第二十一条 
 1 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
 2 (略)
第二十一条
 1 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、保障する。
 2 前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。
 3(略)



ページトップへ