2016.03.27 09:34

小社会 平安中期に生きた清少納言が、枕草子に「書は文集…

 平安中期に生きた清少納言が、枕草子に「書は文集(もんじゅう)。文選」と簡潔に書いたように、当時から文集と言えば唐の詩人、白楽天の詩文集「白氏文集」のことを指した。その影響は源氏物語、徒然草などにも見られるという。

 白楽天は玄宗皇帝と楊貴妃の愛をたたえる「長恨歌」を詠む一方、寵愛(ちょうあい)を受けることもなく宮廷の片隅でむなしく老いた女性を忘れなかった。「上陽白髪人」では〈少(わか)くして亦(ま)た苦しみ 老いて亦た苦しむ〉と不遇に思いを寄せる。そんな視点が共感を呼んだのだろうか。

 これには自身の半生も投影されているのかもしれない。唐の役人として恵まれた生活を送ったとはいえ、左遷や閑職も体験している。子どもに先立たれる不幸もあった。

 高齢で退官した時の詩がある。妻子の機嫌はよくないが、本人の気持ちは〈飢食楽飲安穏眠〉。腹が減ると食べ、楽しく酒を飲み、ぐっすり眠る。そんな日々を楽しみにしている。そして最後につづる。〈達かな達かな白楽天〉。

 大漢和辞典によると、「達」には「通ずる」「よい。よろしい」などの意味がある。下定雅弘著「白楽天」は、詩の意味をこう解釈する。「名利を求めずに生きてきた自分に納得し、自分をたたえる。この詩は白楽天のこれまでの全人生に対する賛歌だといえます」

 3月は退職の季節。万事めでたしではなかったとしても、働いてきた自分に一声掛けてはどうだろう。「達かな」と。
カテゴリー: 小社会コラム


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