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2016.05.16 07:45

奇跡の笑顔 全盲・重複障害を生きる(35)名前に込めた「思い」とは

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窮地にもへこたれない。山崎理恵さんの話に、高知県内各地で感動の輪が広がる(2016年12月、高知県高岡郡佐川町母親大会の講演)

放デイだけで終わらせない
 山崎理恵さん(50)=高知市=の挑戦の記録も今回で最後だ。音十愛ちゃんの近況を紹介しておきたい。この1年の進歩は目を見張るものがあるそうだ。

 まずは食べ物。「以前はマヨネーズのようなペースト食だったでしょ。それが今は超刻み食。食形態が1段階上がりました。めん類はツルツルツル。どんな長さでも大丈夫です」と母。

 短いうどんぐらいだったのが、今ではパスタも大好きに。苦手のスイーツも物によっては平気だ。1年前はスプーンに大人が手を添えて口まで運んでいたのに、今は食べ物をのせて指でコンコンと合図すると、自分で口へ運べるようになった。関係者の食事訓練のたまものだ。

 授業も集中力が付いた。副担任の岡村奈穂先生によると、春先から歩行器を使って練習開始。点字印刷機の作業学習では、レバーを手前に引く動きがスムーズにできる。気が向かないとぐずっていたのが、最近は情緒安定。「中学生になって急にお姉さんになったんです」とニッコリ。

 ところが…。この連載が始まった6月1日、音十愛ちゃんは突然、未明に嘔吐(おうと)を繰り返して高知大学付属病院に入院した。6年ぶりのことだ。6日間で退院したが、その後も高熱で2日間、盲学校を休んだ。看病する母も仕事を休み、職場に迷惑をかけるし、事業所開設の動きにもブレーキがかかってしまった。

 開業予定は9月1日。不安と期待が入り交じる。特に懸案は事業所の物件探しだ。7月半ばまでに見つからないと、リフォームや申請書類提出の関係で間に合わない恐れがある。高知市西部で99平方メートル以下。駐車場が5台程度で家賃が20万円まで。既に20件以上当たったが苦戦している。

 山崎さんは6月末で退職、開設準備に本腰を入れるのだが、引き継ぎ作業もあって気ぜわしい。ほかにも想定外の事態が発生し、とても「順調」とは言えぬ状況だが、「いや、もう乗り切るしかないんです。どうにかします。そういう経験、何度も乗り越えてきてるんで」。

 何の保証もないのだが、山崎さんが言うと妙に説得力があった。そういえば、茨城の紺野昌代さんも、オープン1週間前の段階で苦しんでいた。それに比べたら山崎さんはまだ、2カ月半もある。多少、オープンが遅れても、ここまでくれば大丈夫だろう。立ち上げる仲間に緊張感が出ており、「ピンチはチャンス」となればいいのだが。

 では、「期待」とは。

 「私が目指しているのは、お母さんのレスパイト(休息)と情報交換、そして子どもの発達につながる場なんです。できたら、そりゃもう、喜んでもらえると思うんですよ。子どもも家族も。その笑顔が見たいんですよ」

 NPO法人名を「みらい予想図」と名付けたのにも理由がある。「放課後デイはあくまで第一歩なんです。高校卒業後の生活支援ができる施設も造らないと。だから『絶対、放課後デイだけでは終わらせない。未来は広がるよ』って思いを込めたんです」。仲間の願いも背負い、明日もその先も見詰めていた。

    ◇  ◇

 重症児、医療的ケア児の母親が多額の借金をして自ら施設を造る。事業としては成立しづらかったことが、5年前の法改正をきっかけに日本各地で芽吹いていた。ふれ愛名古屋の支援で母親が立ち上げた事業所は全国で30にも上るそうだ。

 半年前、山崎さんから連絡をもらった時、「無謀だ」とあきれたことを申し訳なく思う。そして、母の挑戦を追い掛けることで、重症児の生き方へ一石を投じる瞬間に立ち会わせてもらえたことを感謝する。
(編集委員・掛水雅彦)
 =第3部おわり
◇…………………◇
「奇跡の笑顔」は7月7日付の高知新聞朝刊「方丈の記」でも続報します。

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