2024年 04月25日(木)

現在
6時間後

こんにちはゲスト様

高知新聞PLUSの活用法

2016.05.16 08:00

奇跡の笑顔 全盲・重複障害を生きる(32)埋もれた人材掘り起こす

SHARE

日替わりのレクで、板チョコを溶かしてチョコバー作り。ヘラの手触りや匂いで刺激いっぱい(茨城県ひたちなか市、重症児デイ「kokoro」)

障害児ママ 一緒に働く
 紺野昌代さん(39)が命懸けで立ち上げた茨城県の重症児デイサービス施設「kokoro(こころ)」。そこは紺野さんの人生を変え、利用者側の人生も大きく変えていた。ある母親は「紺野さんは神様」と絶賛する。

 彼女は双子の兄弟がいずれも難病。そのうち1人はけいれんが止まらなかったことから低酸素性脳症となり目が離せない。だが、重症児対応デイ施設は遠いし、少ないし、予約でいっぱい。めったに利用できなかった。

 自分が病気になっても通院すらできなかったのが、週3回の施設利用で時間ができた。「友達とランチしたり、髪も切りに行けるようになったんです」。普通のことでも喜びを感じる。2018年は小学校。「ここでの集団生活が就学訓練にもなるんです」。昼間に寝ることも減ったので、昼夜逆転が減少。母も早めに眠れるようになった。

 悩み事も、スタッフや母親同士で気軽に話せる。日常介護に役立つ安くて便利なグッズ情報もいっぱいだ。さらには、肺や気道にたまった痰(たん)を取り出すための肺理学療法も教えてもらえたりする。

 「お母さんはみんな孤独なんです。仲間がいると思うと頑張れます。ホント、いいことだらけ。子どもを預かってもらう以外にもたくさん意味がある。ここへ来るのが楽しみなんですよ」

 彼女に限らずみんな、きょうだい児の運動会や参観日に出られなかったり、冠婚葬祭で子どもの預け先に苦労した経験を持つだけに、土・日曜も無休で送迎してくれるkokoroは救いの神なのだ。

 話を聞くうちに気が付いた。スタッフ陣に障害児の母親が多く、スタッフ兼利用者だったのだ。紺野さん以外にも、看護師2人、言語聴覚士と介護福祉士が各1人。常勤、パート合計12人中、5人が重症児の親だった。

 そのうちの1人、週1日だけ勤務の看護師は、第3子が中途障害で全身まひに。以来、5年間、仕事を辞めて家での看病だった。「看護師が施設を立ち上げた」と知って感動。激励のつもりで顔を出し、「何か必要なものは?」と尋ねると、「週末の人手が足りない」と口説かれた。

 言語聴覚士の女性も第3子が18番染色体異常、医師から短命を告げられていた。感染症が怖く、仕事を辞め、外出も控えていたところ、夫がフェイスブックでスタッフ募集を知る。「妻が引きこもっているんですが、そちらで働いたら、一緒に子どもも見てもらえるんですか?」と問い合わせの電話。そして、週3日の勤務となったのだ。

 彼女も言う。「子どもに刺激がもらえるし、私も仕事をすることで生活にメリハリがついたんです。他にも頑張ってるお母さんがいるし、励まされますよね。感謝です」

 家庭で眠っていた人材が見事に社会復帰。わが子だけでなく、他の重症児と、その家族も輝く再生工場となっていたのだ。

 評判はクチコミで広まる。訪問時、20人だった利用契約数はその後も増え、現在、26人に。気管切開児が14人、このうち人工呼吸器使用が10人。既に限界で早くも二つ目の事業所が必要になっているが、紺野さんは「あの苦しさをもう1回となると…。1年ぐらい先なら」と電話の向こうで悩ましげだった。

高知のニュース 奇跡の笑顔

注目の記事

アクセスランキング

  • 24時間

  • 1週間

  • 1ヶ月