2017.06.12 08:20

「南国土佐を後にして」と日中戦争 高知の兵士の望郷の調べ

生死のはざま泣いて合唱
 4月に83歳で亡くなったペギー葉山さんの代表曲「南国土佐を後にして」。もともとは日中戦争のさなか、行軍中の土佐の兵士に歌われていた。歌と元兵士の運命をたどった。 

1940年、中国戦線での第40師団。この傘下に鯨部隊がいた。前列右端が渡辺盛男さん(渡辺さん提供)
1940年、中国戦線での第40師団。この傘下に鯨部隊がいた。前列右端が渡辺盛男さん(渡辺さん提供)
 「南国土佐」がヒットしたのは高度成長期の1959年。明るい世情にペギーさんの澄んだ歌声がはまった。100万枚超のレコードを売り上げ、土佐観光ブームを生んだ。

 「南国土佐を後にして 都へ来てから 幾歳(いくとせ)ぞ」の歌い出し。元歌は「都」が「中支(中国の中部)」になっていた。

 四国出身者らで編成された旧日本陸軍第40師団の歩兵第236連隊、別名「鯨部隊」の一員だった渡辺盛男さん(95)=高知県長岡郡大豊町、元町長=は40年に出征した。

 中国に渡って3年後に歌を知った。「よう歌うた。戦争中も中国で捕虜になった時も」

 戦後、復員兵が歌っていたのを作曲家の武政英策さんが採譜した。「月の露営」を「月の浜辺」、「俺も負けずに手柄を立てて」を「私も負けずに励んだ後で」などに変えた程度で、ほとんど元歌のままだ。渡辺さんの記憶では、戦時下に歌ったものとメロディーもほとんど変わらない。

殺し合いの場
 鯨部隊は1939年に編成され、数々の戦闘に参加した。3千人規模の部隊は1946年5月の復員までに2千人以上が死んだとされる。

 渡辺さんは1940年2月、坂出港から輸送船に乗り、中国大陸の地を踏んだ。当時18歳。4カ月後に最初の激戦があった。初年兵を集め「麦畑の中で一緒に死のうや」と肩をたたいてくれた中隊長、同郷の友も皆死んだ。同時に中国兵の命を奪った。ある地域に行くとどの井戸にも、追い詰められ投身自殺した中国兵が浮かんでいた。

 中国兵の捕虜2人を監視した時だ。水も与えられない捕虜の扱いに同情し、食事を与えた。すると体力を回復した捕虜に逃げられた。脱走を許せば死刑と言われていた。

 「戦争は狂人たちの殺し合いの場。殺さねば殺される」「ここは敵地だ。情けも人情も必要ないのが戦争だと思い知った」。渡辺さんは軍記に記した。

 その後の戦闘で至近距離から左脚の付け根を撃たれた。「もういかん。天皇陛下万歳を言うぞ」。混濁して両親の顔が思い浮かんだ。野戦病院に収容されたのは2日後。命を取り留めた。

 「南国土佐」が部隊で流行し始めたのは1943年ごろ。誰が作ったというわけでもなく、部隊の中で自然発生的に生まれたという。

 いつ命を落とすとも分からない中で、「歌が好きというより、歌わんとやってられん気分でした」。露営でたき火を囲み、仲間と声を張り上げて歌った。

 戦争末期には補給が途絶えた。骨と皮になった兵隊が次々と倒れ、病死した。8月15日に攻撃がやみ、敗戦を知ったのは翌日。「この戦争、何やったんやと仲間と泣いて泣いてやけくそで歌うた」。南京で捕虜となり、復員まで道路工事を強いられた時も歌が支えてくれた。口ずさむと涙が出た。

 渡辺さんは最近まで地元中学校で戦争体験を語っていた。今も中国大陸で眠る戦友を思いながら歌っている。

歌詞のない歌碑
 はりまや橋公園にある歌碑は2012年に完成し、鯨部隊で歌われていたゆかりが記されている。建立運動を率いた高知市の英会話学校経営、臼井浩爾さん(74)は「歌の歴史も知ってほしい」と元兵士に戦地体験を聞き取り、ペギーさん出席の除幕式にも招いた。

 碑はそれより前の60年にも関係者の寄付金で五台山に建立されている。そこに歌のゆかりは紹介されているが、元歌の歌詞はない。侵攻した日本人の兵士が歌った歌であり、中国の対日感情に配慮して避けたのではという見方がある。

 こんな話がある。高知県訪中団が現地に渡った1976年。内輪の夕食会で「南国土佐」を皆で歌おうとした際に一人が止めた。「不幸な歴史的背景で作られた歌曲を口にするのは厳禁」との理由だった。

平和への祈り
 「南国土佐」はジャズ歌手で名をはせたペギーさんの新境地を開く歌だった。当初は民謡調の歌にためらいがあったが「戦友がよさこいを歌いながら死んだ」と語る元兵士に出会い、「平和への祈りの歌」との思いを込めて歌うようになった。

 ペギーさんの声で新たな命が吹き込まれた歌は、集団就職で故郷を出た若者ら、それぞれの理由で故郷を去った人たちを励ました。

 元鯨部隊の一人、吉永強さん(96)=高知県吾川郡仁淀川町=は取材に手紙で応じてくれた。震える字でこうあった。「軍歌ではない。古里をしのび、国に残した両親兄弟を思った望郷の歌です」

カテゴリー: 社会


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