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2022.05.22 05:00

【熱海土石流災害】行政の「失敗」受け止めよ

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 「現・旧所有者への県・市の対応は失敗だった」―。昨年7月、静岡県熱海市で発生した大規模土石流に関する県の第三者委員会は、最終報告書でそう断じた。
 関連死を含め28人が死亡・行方不明となった土石流災害では、崩落の起点にあった盛り土が被害を拡大させた「人災」の側面が指摘される。その責任の一端が行政にあると判断された格好だ。静岡県と熱海市は重く受け止めなければならない。
 土石流は、盛り土を含む約5万6千立方メートルの土砂が約130棟の家屋を押し流しながら、約2キロ下の伊豆山港まで達した。発生直前、盛り土の高さは2009年時点の計画の3倍以上となる約50メートルあり、条例で設置が義務付けられた排水設備もなかった疑いがある。
 昨年10月には静岡県警が強制捜査に着手した。盛り土が造成された土地の現・旧所有者に対し、犠牲者の遺族らが損害賠償を求めた訴訟も続いている。
 土石流発生の直接的な原因やその責任といった真相の解明には、捜査や裁判の進展が待たれる。ただ、盛り土によって被害が拡大した「人災」の側面から、行政の責任は免れないだろう。県第三者委の検証からは、行政のずさんな対応、当事者意識の欠如が浮かび上がる。
 最終報告書によると、旧土地所有者からの盛り土の届け出には未記載の部分があったが、熱海市は受理した。市は11年に県条例に基づき、排水設備を設けるよう是正措置命令を検討しながら見送っている。
 県も積極さを欠いた。静岡では盛り土造成の届け出先は通常は県で、1ヘクタール未満で市となる。だが、造成面積が1ヘクタールを超えたと新たな図面が提出された際も、県は「図面の信ぴょう性がない」と市に押し返した。県も市も造成面積を確定させず、責任の所在は曖昧なままになった。
 内向きな役所の論理、責任の押し付け合いが是正の機会を逃し、危険性の放置につながったと言わざるを得ない。
 被災後もなお、県と市の対立は続く。熱海市議会の調査特別委員会(地方自治法に基づく百条委員会)では証人の県と市、土地所有者らが互いに非難し合った。甚大な被害を防げなかった責任をどう考えるのか。疑問を禁じ得ない。
 こうした行政のありように、地元住民は少なからず不安を覚えていよう。県、市とも住民の生命や財産を守るという行政組織の原点を見つめ直す必要がある。
 熱海市での土石流被害を受けた盛り土の総点検では、全国で無許可・無届け出、計画と異なる造成といった不備が千カ所以上で確認されている。全国一律の基準で対策を強化する盛り土規制法が今国会で成立したが、現状では土石流災害が身近な場所でも起こり得ると考えるべきだろう。
 これから雨量が増え、水害や土砂災害が懸念される時季を迎える。行政組織には常に「最悪の事態」を想定した緊張感と備えが求められる。

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