2014高知豪雨
2014年9月13日朝刊

土砂災害警戒区域 高知県内は指定低率全国32位

 広島市の土砂災害などを受け、「土砂災害警戒区域」の指定のありようが見直され始めている。高知県内には7月末時点で6756カ所の警戒区域があるものの、土砂災害危険箇所に占める土砂災害警戒区域への指定率はそれでも37・3%と、全国32番目の低さ。市町村ごとのばらつきも目立っているほか、指定済みの区域でも住民がそれを知らない場合もある。高知県はできるだけ早く指定率を100%に近づけるよう作業速度を上げる一方、今秋以降、全県民対象に指定区域などを知らせていく考えだ。 

 警戒区域の指定などを定める土砂災害防止法は、2001年施行の新しい法律。以前から、急傾斜地や地滑り・土石流の危険性の高い所では、擁壁や砂防ダムを造るなどの「ハード対策」が進められているが、これらには時間も費用もかかる。このため、国は豪雨時などの速やかな対応を促す警戒区域の概念を新法で定め、市町村に対し、避難や救助体制などの確立▽住民への事前の周知―など「ソフト対策」の実施を求めている。

 法律は警戒区域の指定後の対応を市町村に義務付ける一方、指定作業は都道府県の役割と規定。高知県は各地の土砂災害危険箇所を調べ、順次指定している。この危険箇所は、山肌の傾斜角度が30度以上で住宅が近接している所など県が把握済みの場所で、現地調査が終わればほぼ全てが警戒区域に指定される。

 しかし、高知県内の危険箇所は1万8112カ所と全国で7番目に多いこともあり、警戒区域への指定率は37・3%にとどまる。市町村別にみると、70%以上は6市町(表参照=危険箇所を分割して指定する場合があり、100%を超える自治体もある)で、ほかは指定実績のない高岡郡越知町など4町村を含め、20%台以下だ。

 高知県防災砂防課によると、指定に要する期間は1カ所につきおおむね3年。1年目は机上で地図を作り、2、3年目に県や市町村職員が住民に説明し、専門業者に委託して地形などを調べる。

 このため、高知県は2001年の土砂災害防止法施行後、毎年約500カ所、昨年度からは千カ所(調査費2億2千万円)のペースで作業を進めているが、指定率はなかなか上がらない。住宅が多く、今後さらに開発が進む可能性のある高知市や四万十市などの危険箇所を優先してきたため、市町村ごとの指定率に大きな差が出ているという。

 こうした実態の是正に向け、尾ア正直知事は先月、2016年度以降は年間指定件数を2千カ所に加速させる方針を表明。既に警戒区域に指定されていることを知らない当該住民らも多いため、県はどこが危険箇所や警戒区域かを知らせる冊子や地図を県内全戸に配布する予算も県議会9月定例会に提案する方針だ。

住民の危機意識に差 山の「異変」察知を

 土砂災害警戒区域を指定する土砂災害防止法は、擁壁整備など対策を直接進めるものではない。むしろ、「すべての危険箇所でそうした対策を取るのは困難だから、避難対策の方を充実させて」と啓発する法だ。県内では自治体によって対応の違いがある。住民意識の差もある。山際を歩き、話を聞いた。

 警戒区域の指定が約1600カ所と県内最多の四万十市。愛媛県境に近い西土佐地域の大宮下地区(14世帯)の一部も警戒区域だ。

 周辺は山が連なり、山際に家々が並ぶ。谷間に沿って目黒川などが流れる。大雨などで土砂が崩れれば、民家が被害を受ける危険性はある。地元の区長、尾崎裕人さん(64)は「みんな怖いとは思っているが、昔から住んでいる家を離れられない」。

 幡多地域5市町村の区長らは昨年、行政に要望し、まず目黒川の流域7地区で土砂ダム災害を想定した訓練を国・県・市の合同で行った。津波対策が各地で進む中、尾崎さんは「行政には山の対策にも目を向けてほしい。地域でも住民が一丸となって対策が取れるよう、まとまっていく必要を感じている」。

 ■「知らない」

 四万十市に次ぎ警戒区域(1493カ所)の多い高知市。横浜地区の警戒区域に長く暮らす女性(70)は「指定されていることは知らない」と話す。

 市は地域防災計画の中で、土砂災害の危険性が高まった場合は防災行政無線などで警戒を呼び掛ける▽二次被害を防ぐため避難誘導や道路封鎖をする―などとし、2010年度に警戒区域を記した防災マップも作った。だが、マップなどは市のホームページに載っているものの、対象地区の住民に戸別に配られているわけではない。

 先の女性の地域から少し離れた「横浜中の谷地区」。ここは2年前、「特別警戒区域」に指定された。警戒区域の中でも特に危険度の高い地域。県内には高知市に74カ所ある。

 一般の警戒区域なら家の新築なども普通にできる。しかし特別区域では、行政が擁壁などを造る▽住民自らが被害を軽減する構造の基準を満たす―などの対策が済まない限り、建築許可は下りない。

 谷あいに数十棟の家があるこの地区の男性(66)は「もう随分前に(県が)擁壁を整備してくれていて、一定安心しちゅう」としつつ、「奥から土石流が来るかもしれん」と警戒心も持つ。市指定の避難場所までは遠く、「大雨のたびに家から避難するわけにはいかん。どう対策を取ればいいのか…」。

 ■「住まないで」は無理

 先月の台風で地滑りの危険性も出た長岡郡大豊町の場合、1131の危険箇所に対し警戒区域指定は10カ所。好永公一副町長は、県の指定ペース加速方針を歓迎しながらも、制度はソフト対策が中心のため、「指定で安全が保証されるわけではない。指定にかかわらず、早く逃げることが一番」と話す。

 実際、先の豪雨で土砂が崩れた同町連火地区では、土砂崩れ発生前に住民同士が声を掛け合い、避難した。地元の男性(66)は「水が濁ったり、地面の動く音が聞こえたりしたら『危ない』と、山の人は大体知っている。近くの人が異変を教えてくれ、すぐに避難できた」。

 警戒区域の指定がまだされていない高岡郡越知町は、危険箇所を記した地図を全戸に配っている。危険箇所は町中心部以外の山間部すべてにある。役場の担当者は「『そこに住まないで』とは住民に言えない。土砂崩れなどの防止策にはお金も掛かる」と指定後の対応に頭を悩ませる。

 ■告知徹底も

 警戒区域や危険箇所は県のホームページなどで確認できる。しかし、誰もがそれらの場所を知っているわけではない。

 宅地建物取引業法は不動産業者らに対し、物件が警戒区域にあれば買い手や入居者にそれを伝えなければならないと定めている。県宅地建物取引業協会の役員は「広島の災害を機にあらためて(告知を)徹底したい」と言う。

 一方、県防災砂防課の藤平大課長は「危険箇所や警戒区域でなければ安全、というわけでもない」と話す。

 土砂崩れのため、先月から避難指示が続く高知市鏡的渕地区の斜面は危険箇所のリストにはなかった。藤平課長は「雨の状況などにより、不測の現象も起こる。家の近くに急傾斜地があれば、日頃から危機意識を持ってほしい」と呼び掛けている。





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