2014高知豪雨
2014年8月5日朝刊

鏡ダム越流をギリギリ回避した高知県職員 豪雨の中で放流量を巧みに操作

 鏡川は大丈夫か? 高知県内で記録的な大雨が降った3日、高知市民にそんな不安が広がった。豪雨と満潮が重なり、水位がどんどん上昇する。氾濫危険水位を超え、「あわや」という状況が続いた。ぎりぎりでそれを免れた背景には、上流の鏡ダム(高知市鏡)で水量をコントロールする高知県職員がいた。

 3日朝、鏡ダム管理事務所の町田明憲チーフ(57)は、祈るような気持ちで出勤した。

 「これ以上、降らんとってくれ!」

 1日から断続的に降り続けた雨は、3日午前に激しくなった。鏡ダム上流域にある高知県の雨量計は、午前9時までの1時間で82・5ミリを記録。ダムへの流入量も一気に増えた。

 このころ、西原滋所長(59)はダムを望む鏡ダム管理事務所で前例のない決断を下す。

 「ただし書き操作をやろう」

 鏡ダムは普段、流入量に応じてゲートの開閉をコンピューターで管理している。「ただし書き操作」はマニュアルによる例外的な手動操作。高知県が30年ほど前に定めた。ダムの貯水量が8割を超えた場合に適用し、流入量に合わせて放流量を増やす措置だ。判断はすべて人間。これまで誰も経験したことがない。

 午前10時15分。

 鏡ダムは毎秒1422トンの流入量を記録した。1967年のダム完成以降、最大の流入量だ。

 前例のない操作に入る事務所に対し、担当課を通じて尾ア正直知事から要請が入った。

 「鏡川の水位が上がるのを遅らせてもらえないか?」

 満潮とほぼ同時刻の出来事だった。

   ■  ■

 高知県都の中心部付近では、鏡川の濁流が土手の車をのみ込む。ポリタンクや流木が流されていく。川沿いの住民が、その様子を心配そうに見守っていた。

 3日正午前、高知市東石立町のマンションに住む橋本隆俊さん(69)は「どんどん水位が上がっていく。台風でもこんなことはなかった。これ以上、増水したら危ない…」。

 高知県河川課によると、3日午前11時半、鏡川は東石立町で今回の最大水位の4・84メートルに達し、氾濫危険水位を0・24メートル上回った。2日前の同時刻の水位は0・18メートル。この間の急激な水位上昇を物語る。

 西原所長は「ただし書き操作」を指示し、職員に声を掛けた。

 「ダムとしてできる、精いっぱいのことをやろう!」

 水位計、雨量計、レーダー。それらを注意深く目視しながら、町田チーフが放流ゲートを操作する機器の前に座った。5〜10分間隔で、ゲートの開き具合を変えていく。

 それも数センチ単位で。

 西原所長が言った「精いっぱいのこと」とは、満潮時の放流量を極力抑え、ダムの水位を上げていくことだった。毎秒1422トンを記録した最大流入量に対し、放流量はその半分近い毎秒798トンに抑えた。

 鏡ダムの水位は77メートルを超えると、あふれる。3日正午すぎには76メートルに迫っていた。あと、約1メートルだった。

 高知県は4日、鏡ダム下流の宗安寺水位観測所が記録した「洪水調節の効果」を発表した。「ただし書き操作」にどの程度の効果があったのか。発表によると、宗安寺での最高水位は推定0・91メートル低減したという。

 97年から鏡ダム管理事務所に勤める町田チーフは「想像以上に雨が降って、どきどきした。レーダーの赤色がなかなか変わらなくて…」。西原所長も「越流したらどうしようかと不安だった。いっぱいいっぱいだったが、雨が収まって良かった」。

 今度は台風11号が接近している。西原所長は「まだまだ終わってない」と気を引き締めている。

 【写真】鏡川の治水も担う鏡ダム。川の氾濫を防ごうと、ぎりぎりまで放流量を抑えた(3日午後6時半ごろ、高知市鏡)



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