(67)整備経費削減の潮流

英国のフライビーが発注したQ400(2008年12月、カナダ・トロントのボンバルディア社工場)

 航空労働者の質や機体整備態勢の劣化―。米国の調査研究機関は幾つかの旅客機事故を例に挙げ、航空規制緩和を「失敗だった」と結論付けた。

 ただ、規制緩和の流れは既に世界市場に広がり、各国航空会社は路線拡大や低運賃化など激しい競争を繰り広げる。

 より燃費がよく、より維持経費の安上がりな機材を求める航空会社。近距離輸送を小型機で担う地域航空会社のニーズに合致したのが、ボンバルディア社のQ400だった。

 【写真】英国のフライビーが発注したQ400(2008年12月、カナダ・トロントのボンバルディア社工場)

 ■整備を省略

 58機のQ400を持つ英国最大の地域航空会社フライビーの代表は、ボンバル社の宣伝資料にこんな言葉を寄せている。

 「運航経費は驚くほど低く、低運賃で地方都市を結ぶ当社のビジネスモデルに欠かせない。Q400を基軸に据えれば、数百万ドルの経費節減につながる」

 国の手厚い保護と規制に守られてきた日本市場も1990年代から、いや応なしに世界競争に巻き込まれた。

 「国際線はものすごい値下げ合戦。もうけるのは至難の業。国内線の収益で国際線をなんとかつなぐ構図だった」と元全日空幹部。「しかも、国内でもうかるのは羽田発着便だけ。そこへ、新規会社が参入し、幹線のもうけも薄くなった」

 地方間路線の収益改善が強く迫られた。高知―大阪線などにQ400が登場した背景にはそんな要因があった。

 全日空は人件費の安い子会社にQ400を運航させ、経費を削減。外向きには高速性や燃費性能などをアピールした。ただ同社にとって、Q400には別の利点があった。機体整備の省略化だ。空港に到着後、次の目的地に向かうまでの間に整備士が車輪やエンジン、翼、胴体などを見る「飛行間点検」がQ400は不要だった。

 ■ジェットにも拡大

 旅客機の点検には、毎日・毎便ごとの飛行間点検▽累計飛行時間に応じて詳細に機体を調べる定期整備―がある。

 Q400の場合、ボンバル社やカナダ当局が定めた整備プログラム上、飛行間点検は1日の最初の運航前と最後の運航後の点検だけでいいことになっている。全日空も導入当初から、便ごとの点検を省略してきた。

 ただ全日空も日本航空も、整備プログラム上、便ごとの飛行間点検が同様に不要とされているボーイング737―800、エアバス320などのジェット機については、安全対策面から独自に飛行間点検をしてきた。

 全日空によると、機種ごとの点検方法は国土交通省とも協議するというが、同グループ関係者は「飛行間点検をする、しないは、座席数や就航地の人員態勢も勘案する。運航経費をなるべく抑えたい地方間路線のQ400にジェット機並の対応は難しい」。Q400はある面、整備コスト削減の象徴機だった。

 全日空は、年内に初号機を入れる最新鋭ジェット機B787(約230席)でも飛行間点検の省略を検討している。ジェット便で飛行間点検を省略すれば、同社としては初のことになる。

 同社ベテラン整備士は、警戒感を込めて自らの職場を語る。

 「飛行間点検はかつて整備士2人で行っていた。それが簡素化されて、今は1人。それをさらにゼロにするというのは安全運航上、不安が大きい。点検中に作動油漏れや車輪の損傷などが見つかり、欠航や機材変更になることはよくある」

 日航の元整備士も今の潮流の先にあるものを心配する。

 「点検省略はB787だけで終わらないだろう。日航も大量のリストラで整備士の数が激減した。ほかのジェット機にも広がる可能性が高い」

(10年6月9日付・朝刊)

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