(66)米報告書「緩和は失敗」

 「航空の規制緩和をリードしてきた米国で昨年6月、衝撃的な報告書が公表された。

 〈視界なき飛行―規制緩和を再考する〉。かつてオバマ大統領も役員を務めた無党派の公共政策研究機関、デモス調査研究所がまとめたものだった。

 〈規制緩和は失敗である。なぜなら航空旅行は元来、競合するビジネスではないからだ〉

 前回触れた日本の「成長戦略会議」が打ち出した方向とは正反対の結論

 

 ■不十分な操縦訓練

 報告書は、規制緩和の不幸な結末として、幾つかの事故を挙げている。冒頭にあるのは、カナダ国境に近いニューヨーク州バファロー近郊で起き、本紙も現地で取材したボンバルディアQ400墜落事故だった。

 2009年2月、米東部ニュージャージー州ニューアーク発バファロー行きのコンチネンタル航空3407便が着陸に向けて降下中、住宅地に墜落。住民1人を含む50人が死亡した。

 米運輸安全委員会(NTSB)などの調べでは、同便は翼への着氷で失速警報装置が作動。パイロットは機首を下げて速度を上げるべきだったが、逆に機首上げをして、墜落した。

 同便はコンチネンタル航空が航空券を販売していたが、実際の運航は傘下のコルガン航空。パイロットはこの警報が作動した場合、機体をどう操縦すべきかの訓練を受けていなかった。

 給与も低く、副操縦士の前年の年収は155万円ほど。しかも、機長も副操縦士も勤務拠点のニューアークまで、米国本土を横断、縦断するような遠距離通勤を余儀なくされていた。

 訓練の欠落と、過酷な労働条件による疲労がもたらした事故だと推察された。

 報告書は、その背景に規制緩和による業界の競争激化があるとして、厳しく書いている。

 「規制緩和は幅広い消費者の選択と業界の効率性をもたらすことを目的に促されたが、ここ数年の結果は正反対である。サービス水準は低下し、合併によってほとんどの路線が減便し、(中略)航空労働者の雇用不安が現れている。これらは常識的な感覚で効率的とは言えない。単に労働者を絞り上げているにすぎない」

 ■孫請けの整備

 米国が航空の規制緩和に踏み切ったのは1970年代のことだ。運賃や路線、新規参入航空会社などの認可を担当する民間航空委員会(CAB)を廃止。管制や安全対策を担当する連邦航空局(FAA)のみを残して航空の自由化を促進した。

 その結果、航空会社が続々誕生し、路線は拡大。サウスウエスト航空など格安会社として地位を築いた会社もあるが、倒産する会社も相次いだ。

 取材班は報告書が示すもう一つの事例にも注目した。2003年1月、ノースカロライナ州の空港でUSエアウェイズ・エクスプレス便を運航していたミッドウエスト航空(AMW)の小型機が離陸に失敗し、乗客乗員21人が死亡した事故だ。

 事故の主因は水平尾翼の制御システムの整備ミス。背景には信じがたい状況があった。〈この話には3段階の責任委譲が存在する。USエアウェイズは運航をAMWに委託し、AMWはFAAが監督する整備会社に整備を下請けに出している。その整備会社はFAAが監督していない別の会社にさらに下請けに出していた〉

 規制緩和が日本を含め世界に広がる中、その本家と言える米国で広がる規制緩和の陰。報告書は規制緩和の恩恵であるはずの運賃の低価格化についても懐疑的で、不公平で複雑な運賃システムになったと警鐘を鳴らしている。

 報告書は、米ビジネス旅行連合のゲビン・ミッチェル議長の言葉を後段に紹介している。

 〈引退した航空会社の経営者はこう言うだろう。「かつては経費を削減しなければならない状況でも、侵してはならないものがあった。整備と安全だ。今ではすべてのものが削減の対象となり、聖域はない」〉

(10年6月7日付・朝刊)

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