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一冊のリポートがある。題名は「よさこい長期ビジョン」。昭和六十三年、よさこい祭振興会が祭りの規模拡大に伴い、あらためて祭りの将来像を探るたたき台として作った全六十二ページの資料である。
最大の眼目は「主会場移転問題」だった。若者チームの隆盛で急速に増え始めたチーム数はその年、百十チームにまで膨脹。待機時間の長さや音響問題などを背景に、「本部競演場を追手筋から別の場所に」という声が高まっていた。
リポートは、注目の移転候補地として「播磨屋橋−県庁前」など三案を列記した上、「高知駅−播磨屋橋間の電車通り」が最も有力と明記。以後の議論が期待されたが…。
もう、十年が過ぎた。
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「結局、解決策が出てこない。南北の幹線道路なので一般車両や公共交通の代替路線を構えるのが難しく、県警の見方も厳しい。公式な場での議論はほとんど進まず、やるともやらないとも決まっていない“塩漬け”みたいな状態」
それが振興会事務局の説明だ。
確かに、会場問題には多くの障壁が立ちふさがっている。交通問題のほかにも周辺の住民、事業所の同意が得られるか、という問題。さらに、それらがクリアされても、会場の規模拡大に伴って膨れ上がる運営資金をどうするかという難題がある。
昨年、事務局が駅前通りを想定して行った可能性調査では、高知市中心部の交通誘導対策や桟敷席の大型化、照明装置の設置など移転経費はざっと一億九千万円。今年の振興会予算約七千二百万円の三倍弱に上る。工面は並大抵ではない。
事務局にとっては、新たな道路封鎖に伴って営業できなくなる事業所への対応も懸念材料。「地区競演場などでは『盆休み』などの形で多くの事業所が協力してくれているが、電車通りとなると膨大な事業所数。もし、期間中の補償を求める声が出たらどうなるか。よほどの覚悟がいる」(事務局)と案じる。
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「早く電車通りの開放を!」。踊り子の中にはその要望が依然強い。特に、舞台が大きい札幌のYOSAKOIソーランの登場以来、広い会場への関心がより高まっている。札幌で踊ったことのある女性(28)は「隣とぶつかることもないし、のびのびしてすごく気持ちよかった」と話す。
ただ、面白いのは札幌との比較で、「やっぱり高知がいい」という声が出てきていること。ショーとして見れば確かに札幌は見栄えがする。しかし鳴子が間近に聞こえ、汗が観客まで飛び散るような、蒸せ返るような臨場感は断然、本家高知が上―というわけだ。
今年のよさこい祭りに来た札幌の踊り子たちも「一体感がすごい」「これが祭りか」と興奮した顔で高知の魅力を語っていた。会場の狭さは、図らずも祭りをより「熱く」する要素にもなっているわけだ。
もっとも、十分間踊ったら移動や待機に一時間も二時間もかかる「だらだら運営」にはうんざり。それが嫌さに祭りへの参加をやめた踊り子もいる。
電車通りに移るか。あるいは追手筋のままで改善策を探るか。いずれにせよ祭りの将来を考える時、競演場の改革は避けては通れない。単に本部競演場だけにとどまらず、地区競演場も含めた競演時間の調整など祭りの運営全体の中で見直されるべきだろう。
内情を明かすと、一長一短のある本部競演場の移転については、この連載の取材班の中でも意見が分かれる。この夏体験取材で踊った本紙記者は電車通り移転派。私は追手筋据え置き派だ。さて、踊り子や市民の判断は―。
節目の「五十回大会」まであと五年。塩漬け状態の会場問題をまな板の上に乗せる時期に来ている。
=文中敬称略
(社会部・山岡正史)
【写真】本部競演場の移転候補地の一つ、高知駅−播磨屋橋間の電車通り。長く結論は出ていない…(駅上空から撮影)
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