|
よさこい祭りは毎夏取材していたが、私の興味は専ら踊り子の表情や衣装、音楽、振り付けにあった。この連載の取材を始めるまで、主催団体である「よさこい祭振興会」にはほとんど目を向けたことがなかった。華やかな祭りの表面だけを眺めていた。
競演場の狭さ、交通渋滞、騒音…。祭りの運営にいくつか課題があり、振興会が対策を迫られていることは知っていた。ただ、振興会事務局に足を運ぶうちに見えてきたのは、それらの課題を解決すべき振興会自体が、組織上の難題に悩んでいる姿だった。
「ペットを飼っていたら、いつの間にか猛獣になっていた」
かつて関係者の一人がよさこい祭りについていみじくも漏らした一言である。祭りの急激な膨脹と進化。そのうねりは、振興会の態勢、財政、企画…と、至るところに負担を生んでいた。
◇
そもそも振興会とは何か。
昭和二十九年に祭りが産声を上げた時に、発起団体だった高知商工会議所に事務局を置く形で関係諸団体がつくった組織である。現在は行政や商工団体、交通機関、マスコミなど約四十団体の代表からなる理事ら五十五人の役員で構成。高知市内の主立った組織を網羅する大きな布陣が、市内各所の路上を封鎖して行われるよさこいの「社会的担保」にもなっている。
全体の意思を決定するのは年一回の総会。通常は全体を統括する「総務部会」と、ルールなどを検討する「事業部会」、県外PRなどを考える「企画部会」の三部会で必要事項の決定、調整を図る。各部会を構成してきた主な団体がいわゆる「主催五団体」で、高知商工会議所、県、高知市、高知新聞社、RKC高知放送。数年前からは、競演場連合会も加わった。
実のところ、私は「よさこい総研」の会合で運営や振興会に関する問題点が話題になる度に、妙な気分にさせられた。現場のはしくれとはいえ、主催団体の一員に属する身。「現場は現場」と思ってはみても、やはり組織への帰属意識はきちんと働く。「祭りや振興会への不満を取材して、記事にできるの」。本音とも冗談ともつかない彼らの言葉は笑顔で無視し、メモを取った。
◇
名を連ねた組織構成で見る限り、振興会は確かに大掛かりな布陣だ。しかし運営の実態を知る人には、決して大きく映らない。それどころか、「小さい」という言い方さえされている。
例えば札幌のYOSAKOIソーラン祭り組織委員会専務理事の長谷川岳。彼の言葉を借りると「全国の祭りを調べたが、高知ほどシンプルなシステムはない。効率のいい、究極の運営」となる。要するに、巨大な祭りを運営する組織にしては、驚くほど仕組みが小さい、という意味だ。
具体的に言えば、「小さい」のは事務局態勢である。祭りの本番こそ数百人規模のスタッフが現場に繰り出すが、それはあくまで応援部隊。企画や準備に当たり、祭りの運営を担う事務局は四人しかいない。
もっと厳密に言うと、この四人はよさこいの専任ではない。高知商工会議所職員としてほかの仕事をしながら、よさこい「も」担当しているのである。「YOSAKOIソーラン」自体を仕事とし、その経費で給料を得ている札幌のスタッフとは、およそ事情が異なるのである。
「祭りはその時に集まってやるもので、そもそも専任スタッフなんてどうかと思う。しかし、これだけ規模が大きくなると、もう手いっぱい。これをしろ、あれを考えろと言われても、できんことはできんわけで…」
振興会事務局長の沢本彰夫が、ぼそっと本音を漏らした。
=文中敬称略
(社会部・山岡正史)
【写真】第45回よさこい祭りの前夜祭会場で、チーム関係者と話す振興会事務局の沢本(8月9日、高知市の中央公園)
|