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「行くぞ、モリモリ!」
この夏の「ユニティビート」は、踊り子を先導するスタッフが何度もこんな掛け声をかけた。「モリモリ」とは、毎年チームに参加していた踊り子の故・森剛紀さん(24)=高知市中秦泉寺=のニックネームである。
建設会社に勤め、無口で穏やかで、音楽と車が好きな好青年だったという。ことしも「ユニティビート」で踊るはずだったが、練習が始まる直前の七月十五日、愛媛県での仕事帰りにで車を運転中、対向車線からはみ出してきたトラックに正面衝突され、亡くなった。
その「モリモリ」の母親の森光恵さん(46)が祭り本番の八月十日午後、帯屋町アーケード街で踊る「ユニティビート」を、人垣に交じって見つめていた。両手に、昨年の祭りの衣装を着た息子の笑顔のスナップ写真を抱いている。
「お母さん、僕らあもモリモリ連れて踊ってますよ!」。リーダーの健ちゃん=吉岡健児さん(37)=が光恵さんを見つけた。人垣から道へ引っ張り出し、地方車のフロントガラスに飾った額入りの大きなカラー写真を見せた。昨年の祭りで高知新聞に掲載された、浴衣姿で生き生きと踊る剛紀さんの写真だ。
「祭りを息子に見せて一緒に踊らせてやろう」と「ユニティビート」が来るのを待っていた光恵さんは、地方車に息子の大きな遺影が飾ってあることにとても驚いた様子だった。写真をなで、丁寧に礼を述べて立ち去った。
◇
よさこいは、若者が自由に生をおう歌する祭典だ。主役は十代、二十代。人の「死」は、まだずっと遠い先にある。
「何かみんな、生きものーって感じで、いいじゃないっすか」
踊り子の高揚がピークに近づいた十一日の午後。並んで出番を待っていた踊り子のシュウ君(24)が、味わい深いことを言った。
深夜の練習に通っていた私は、いつもぽつんと一人でやってくる彼と親しくなった。四年前から毎年「ユニティビート」で踊っているという。話すととても気さくだが、自分から進んで人の輪に入っていくような性格ではない。
「父が酒飲みでね。僕ら家族は小さいころからバラバラで。それもあってか、僕、人見知りするんですよ。その父が四年前に病気で死んで、胸にぽっかり穴が開いた感じで、自分を変えてみる転機やと思って、二年前まで姉が出ていたよさこいに出てみようと。最初は一人でさびしかったすけど、今はねえ、踊らないと、夏は終わらないっすよ」
電機メーカーに勤務する彼の趣味はバイク。「これもまあ、一人でする趣味。みんなでわいわいやるのは、よさこいだけっすね。『モリモリ』とも仲良くやったすよ。夏の間の、気のいい友達だったすよ」
◇
「モリモリ」の母親の光恵さんは、いつもは無口でおとなしい息子が、夏になるといそいそと踊りの輪に入っていくのが、不思議でならなかったという。
「よさこいが近づくと、家の畳の上で、『ことしの踊りはこんなんでえ』と見せてくれたくらいですから。結局ねえ、義理で集まりゆうがじゃのうて、本当に好きで、気の合う仲間だったんでしょうね。ことしも本当なら、張り切って踊ってたでしょうに…」
◇
すっかり日が暮れた。十一日午後九時すぎ。「ユニティビート」のラストダンスは、はりまや橋商店街だった。みんな真っ黒に焼け、汗が浮いている。「行くぞぉ、モリモリ!」。チーム内だけのニックネームが、また元気にとどろいた。
「うにゅーん」と例のリズム。もう踊り子は最高潮で、舞い上がっては跳び上がる。ちょうちんの明かりが揺れる地方車が、「モリモリ」を乗せてゆっくりはずんだ。
(社会部・石井研)
【写真】昨年のよさこい祭りで、高知新聞に掲載された故・森剛紀さん。腕にはユニティビートの友達が書いた「モリモリ」の文字
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